週刊RO通信

宣伝広告の気色わるい話

NO.1358

 コロナで四苦八苦する中小企業に、国が最大200万円給付する持続化給付金事業を一般社団法人サービスデザイン推進協議会へ769億円で委託したが、その97%を電通に再委託=丸投げした。協議会は電通、パソナ、トランス・コスモスが2016年に設立した。持続化給付金事業は150万件を想定しているが、協議会は非常勤の理事8人・従業員21人の小さな所帯。

 さらに電通から子会社へ再々委託もあり、委託料は合計154億円、内訳は協議会の人件費1.3億円、電通管理運営費103億円、子会社分など50億円、〆て154億円、総事業費の20%であることがわかった。協議会の定款は経産省情報システム厚生課が作成したらしい。国が事業を民間委託するのは当たり前としても、小さな協議会へ委託したのはなぜか? 国策電通といいたくなる不明朗な仕掛けについてすっきりさせねばならない。

 政府は、コロナ後の経済再生のために早々企画した「Go Toキャンペーン」事業費3,500憶円の事務委託先公募をいったん中止した。これも同じ体裁を想定していたのではないかと勘繰る向きもある。なにしろいずれの企業でもおおいにキャンペーンをおこなうが、かけ声ほど奏功しないのは誰もが知っている。そもそも足下のコロナ対策では後手後手で目途が立たないのに、こればかりは手回しのよろしい話だという批判もあった。

 小泉内閣以降、ワン・フレーズ・ポリティクスというのか、あるいはキャッチコピー政治というのか、耳障りのよろしい言葉が政治家や政府当局からポイポイ流される。いまだ不快感が残るのは、IOC総会で東京へ五輪を招致するために安倍氏が騙った「Under Control」である。いかにもコピー屋的センスの人が考えた決め台詞であるが、どなたさまも「No Control」じゃないかと思っておられるであろう。

 東京への招致は不明朗な問題が続いている。3月31日には、現在五輪組織委員会理事で元電通専務の高橋治之氏の会社コモンズへ五輪招致委員会から8.9億円送られたとロイターが報じた。高橋氏が招致ロビー活動に使ったという。16年リオ五輪で200万ドル収賄容疑のディアク氏にも手土産を渡した。品はセイコー・ウォッチだというが真相は不明だ。

 招致委員会理事長であった竹田恒和氏は、高橋氏にディアク氏に対するロビー活動を頼んだ覚えはないと語った。高橋氏は民間企業からスポンサー費用を集めた際、コミッションを取っていたと招致委員会事務局長の樋口修資氏が証言している。招致疑惑の煙がもやもやしている。

 11年東日本大震災の後、6月25日に発表された東日本大震災復興構想会議報告書には「悲惨の中の希望」というタイトルが付けられた。情緒的・文学的表現であるが、すんなり共感しにくかった。誰にとって悲惨の中の希望なのか。被災地に寄り添ったつもりだろうが、わたしは嫌味を感じた。「がんばろう!日本」も右に同じだ。現地に入って泥出ししていると、サッカーかなんかの応援「ニッポン」チャチャチャと同じ乗りに感じられて、とても愉快にはならなかった。感性をふりまわすのはどんなものか。

 テレビで福島原発風評被害の払拭を目的として、人気タレントを使って「食べて応援しよう」というCFが流された。風評を流す連中以外は、誰でも現地の人々が気の毒だと思っているから、「そうだ、桃でも買おう」と共感する。ただし、人々が安全性に危惧を抱いている肝心の問題が、視聴者の頭のなかで軽視ないし忘れられるという効果もある。つまり、「食べる=安全」という巧みな心理学的効果が発揮されるわけだ。

 まあ、これなどわかりやすい事例であるが、宣伝広告というものは人々の潜在意識や情緒に働きかけて、思考・行動を引き出すものであるから、正直でない政治家や政府が人々を、「Under Control」してやろうと考えて巨大な広告代理店をおおいに活用するとなれば、どんなものか。

 電通は、政府・自治体の宣伝広告を至る処で受注・展開している。電通がクライアントに対して上等な仕事をすればするほど、訴求対象のカスタマー(国民)は、頭をよほど明晰・判明にしておかないと問題の本質を見失う。商売を邪魔する気持ちはさらさらないが、電通が巨大な企業力でメディアを牛耳り、政府の宣伝広告機関として機能するのは、とても気色わるい。