論 考

中味のあることを語ろう

 子ども時代には、人前に堂々と顔を出せないような人間になってはいけないよ、という大人からのメッセージを何度も聞いた。あまりにも当たり前なのでパッとしないが、とても大事である。

 政治家がマスクをして登場するのはどうもいただけない。役者でもそうだが、目だけで演技できる人は多くない。もともと日本人は表情豊かではないからマスクをしてもしなくても変わらないという考えもあるが、だからなおさら面構えをさらしてほしい。

 多弁の政治家は少なくないが中身が薄い。かつて中曽根康弘氏は鉋屑みたいにぺらぺら喋ると酷評されたが、いまの諸氏と比較すると、自分の言葉で話していたのは間違いない。

 昨今の政治家には、いわゆる官僚的語り口が多い。いかに本音を掴まれないようにするか、公約違反だと追及されないようにつねに逃げ道を用意している。

 この気風は、SNSなどで他者を理由なく誹謗中傷する連中が増えたこととまったく無関係ではないであろう。自分が話したことがブーメランで帰ってこない準備をして、話したり、書いたりするのはアンフェアである。

 コミュニケーション・ツールがいかに進化しても、使いこなすにはそれなりの自己研鑽が不可欠だ。

 誠意がなければ、あらゆる論争は無駄で有害なおしゃべりに過ぎない。政治家諸氏には、SNSの規制に知恵を絞るよりも、言葉の素晴らしさを認められるように尽力願いたい。