論 考

いまを大事に

 昔から、戦争の後には必ずといってもよろしいほど、新しい創造物が登場した。文学作品など名作が次々に発表された。

 戦後だけではない。読書など禁じられていた軍隊で、上官や周囲に見つからないように隠れて虎の子の本を何度もなんども読んでいる姿が、戦没学徒の記録にはたくさん出てくる。学生だけではなく戦時戦後の日記にも熱い読書熱が感じられる。

 わたしは敗戦の9か月前に生まれたが、会社に入ってから面倒見てくださった10歳程度先輩世代は実によく本を読んでおられた。何人もの先輩から「本をお読み」「古典が大事だ」と、こもごも忠告していただいた。戦時という何ごとにも窮屈な時期に、思索を深められたからであろう。

 いまもそれなりに厄介極まりないが、じっと耐えて、やがて立ち上がる時には創造的気風が起こるように、いまを大事にしたい。