論 考

煽動する人、される人

 緊急事態宣言が出されれば、何かが解決したような気分になっているみたいであるが、何も変わりはしない。本日東京新聞のコラム子は、1941年12月8日の対米英蘭開戦で、それまでのうっとうしい空気から解放感が漂ったというエピソードを引用して緊急事態宣言について書いている。誤解を招く。歴史をトンチンカンに引用するのは止めてもらいたい。

 あの開戦後にどのような結末が待っていたか。開戦時と宣言を単純に並べても意味はない。当時は真珠湾不意打ちで大勝利が報じられて、国民挙って舞い上がった。なんら戦争の見通しがあるわけでなく、国民が大博打に巻き込まれた。緊急事態宣言が当時と似たような解放感を引き起こすならば、とんでもない話であって、そのような気風を戒めねばならない。

 当時は、報道統制もあり、国民が実際何が起こっているのかわからなかった面もあるが、それにしても無謀な戦争を始めたわけで、理性が働かず、ただ感情だけが高揚していた。

 このようになってはならない。緊急事態宣言が出なくても、すでに人々はそこそこ自粛行動しているわけである。医療崩壊を危惧しているのだから、その対策のために、このように取り組んでいますという具体的な話を展開してもらいたい。そもそも政府が早々に気づいていたのであれば、単に、人々の自粛に依存するのみではなく、もっと早くから医療体制のための準備に着手できたはずだ。国民諸兄が、じっくり考えないのに便乗して、いままでの政治的失敗隠しにも見える。

 東京新聞はなかなか気骨・反骨のあるトーンの新聞であるが、権力と逆の立場であっても、人々を扇動するのはよろしくない。気分ではなく、理性的たることの向上に貢献しなければならない。