論 考

TOB成功という失敗

 前田建設工業による前田道路に対する敵対的TOBが成立した。前田建設は51.29%の前田道路株式を保有した。

 前田道路は以前から独立独歩が社員のプライドであり、そこから無借金経営を形成してきた。前田道路は現金・有価証券で994億円(2019.3)を保有している。

 前田建設のTOB提案は、建前は両社によるシナジー発揮であるが、従来から、建設から道路への発注はほとんどなく、今回のシナジー提案についても道路側はたびたび異議・疑問を呈してきた。

 前田建設の本音は、前田道路の内部留保金にある。子会社化して、相手の財布から持ち出そうというのだから、まさに敵対的TOBにふさわしいわけだ。

 TOBは成立したものの、シナジー発揮どころか、両社の関係は本当の敵対関係になってしまったわけで、「質」的には、大失敗である。

 前田道路労働組合も、協力会社もTOBに反対してきた。前田道路の社員が「資本の論理だから仕方がない」とばかり、TOBを受け止められないだろう。

 前田道路の時価総額は2,612億円、仕掛けた前田建設のそれは1,434億円である。前田道路の社員が「あほらしい」と考えない保証はない。

 資本を作っているのは労働者である。このような原則をきっちり理解していない前田建設経営陣が、道路の経営を牛耳ることになれば、最悪の場合、共倒れもありうる。株式を握っただけでは今後の動向は見極めがたい。