論 考

理念なき政治にはあくびが出るが

 イギリスがEUから離脱した。ジョンソン氏は「終わりではなく始まりだ」と語った。ただし、「何が始まるのか、それが問題だ」。

 年内は移行期間だから、ただちに大変化が発生しない。イギリスは各国とのFTAを締結する作業に入るが、人・資本・モノ・サービスの単一市場と関税同盟を確保するEUを離脱したのだから、いいとこ取りはできない。

 イギリスのGDPは2.7兆ドル、28か国のEUは18.3兆ドルだ。かつての大英帝国として君臨した時代は遠くに去った。時代錯誤の大国意識とジョンブル魂だけではいかんともしがたい。

 たまたま新型コロナウイルス騒動でてんやわんやだが、これ1つとっても、小さくなった地球市民が提携していかなければ、お互いに不用の摩擦を発生させるばかりである。

 いま、まさに世界は混沌の最中だ。博学の哲学者・河野与一(1896~1984)は『学問の曲がり角』において、天地開闢を謳ったシオドス(前8世紀)が『神統記』に、khaos(chaos)という言葉を書いているが、この意味は「混沌」や「どろどろ」ではなく、「あくび」であると喝破した。いわく、「はじめにあくび出たり」であると愉快な解釈を展開した。

 なるほど、世界中を混乱・混沌に落とし込んでいるアホな政治家諸氏が羅列する言葉の中身の退屈なこと。まさに「あくび」が出るようだが、そして、まことに危ないのであります。