論 考

経営者がわが身を顧みる春季交渉にしよう

 経団連の経営労働政策特別委員会報告書が公表された。

 賃上げは自社の事情による、新卒一括採用・終身雇用・年功賃金など雇用システムを見直すということに加えて、働く人のエンゲージメント(engagement)向上が重要だと指摘した。

 ここでいうエンゲージメントは、働く人の士気向上を言うのであろう。賃上げが士気向上につながることはまちがいないが、実際は、賃上げが士気向上よりも士気低下を招くほうが多い。というか、士気向上には、2%程度の賃上げでは効果が見えないということにある。

 働く人が、「これは、おれの仕事だ」と確信して働いている状況が、士気が高いのである。それは次のように表現できる。

 ――わたしは、わたしの人生において、わたしの個性と、その独自性とを仕事に向けて発揮する。仕事をしている間、わたし自身の生命発現を楽しみ、制作したものを観照することによって、わたし自身の喜びを味わう――

 画家が絵を描く過程を楽しみ、出来上がった作物を楽しむ。それゆえ、さらにまた新たな絵に挑むというパターンと同じである。

 これ、売上や利益のみに熱中して、働く人に過大なノルマを押し付けているような労務政策からは生まれない。

 本当に経営者が働く人のエンゲージメントを願うのであれば、まずは、自分が何を発言し、何を周囲に押し付けているか。ここから出直さねばならない。

 せっかくの春季交渉である。組合交渉団は、おおいに、「士気向上とは何か」について熱弁をふるっていただきたい。