論 考

権力は野蛮である

 サウジアラビアの記者カショギ氏が、10月2日、トルコのイスタンブールにあるサウジアラビア領事館へ入ったまま消息不明になった。

 サウジアラビアから政府関係者が、カショギ氏消息不明になる直前に入国し領事館に入り、直後に出国した。この事実と、カショギ氏の消息との関係が一挙にセンセーションを巻き起こしている。

 次々にトルコ政府が流す情報から、サウジアラビアの実権者ムハンマド・ビン・サルマン皇子(MBS)との関係が取沙汰されている。

 まだ事実関係が確定していないし、今後も(政治的に)確定しない可能性が高いが、領事館へ入ったサウジアラビア政府関係者の身元からして、カショギ氏行方不明と彼らとの関係が切り離せないし、誰が命令したかといえばMBSであろうという推測が有力である。

 「人間は、なぜ真に人間的な状態へ踏み入っていく代わりに、新しい野蛮状態へ落ち込んでいくのか」。これは、アドルノとホルクハイマーによる『啓蒙の弁証法』(1947)の序文である。

 MBSの政治的手法はおおいに強引である。根深い女性差別に切り込んだり、政治経済改革に期待する声も高いが、好意的に見て「封建啓蒙型君主」「専制政治家」の感を免れない。

 人は権力を掌握すると、自分が恣意的に権力行使したいと考えやすい。仮にそれが高邁な理想に燃えたものだと本人が確信しているとしても、目的のために手段を選ばずという行動をとることは許されない。

 「真に人間的な——」の1つの解としては、「権力」の奪取・獲得・維持という問題に注目せざるを得ない。

 「権力は腐敗する」というが、本来「権力は野蛮である」という思いを強くするのである。