週刊RO通信

コクボウの短慮はボウコク

NO.1660

 安全保障の周辺環境が不安定になったから、日米同盟を基盤として防衛力を強化せねばならない。これが最近の傾向である。防衛力とは抑止力であり、抑止力を強化することによって国防が盤石になると短絡している感である。果たしてそうだろうか。

 抑止力とは、相手が攻撃してきた場合、容赦ない反撃で大きな損害を与えるという威嚇である。威嚇が効果的だということは、それだけこちらの抑止力=軍事力が相手を不安にさせるのだから、相手はさらに軍事力を強化せねばならないと考える。相手の軍事力を無力化する期待がさらなる相互軍拡を招いてしまう。

 いずれの国も、他国を侵略するために軍事力を強化するとはいわない。他国の侵略から自国を防衛するためだという。しかし、そのロジックがすんなり成立しない。相手が自国を不安に陥れるから防衛のために「先手を打って」反撃するからである。防衛力だろうが、抑止力だろうが、敵対する国同士においては危険な武力である。

 周辺の安全環境が不安定だから、防衛力を強化するといえば一応理屈の形式は整っている。関係部門はしかるべく知恵を絞って取り組む。形式が整っているだけでは十分でない。大事なことは形式の内容、中身である。木を見て森を見ずになってもいけない。国防という大きなテーマであるのに、安全保障の周辺環境が不安定になったというだけで、どんどん防衛費が膨らんでいく。

 周辺の安全環境がなぜ不安定なのか。問題の原因はどんなところにあるか。武力衝突に至れば、問題解決はますます難しくなる。安全環境を安定させる取り組みをせずに、もっぱら衝突の算段の熱を上げるのは、わざわざ武力衝突の危険を高める方向へ傾斜することに他ならない。それ自体が安全環境を悪化させている。

 先日の日米首脳会談冒頭、首相は「世界中に平和と安定をもたらせるのはドナルドだけだ」と持ち上げた。3月25日参議院予算委員会の高市答弁では、「(中東の)戦争を平和に持っていけるのも、世界経済を改善できるのもトランプ大統領の気持ちにもかかっている、そういった思い」だと発言した。「渡米する機内で徹夜で考えた」そうだ。よく眠らなければ頭の切れはよくならない。

 見方によっていろいろに解釈可能な玉虫色発言のつもりらしいが、そんな「つもり」は本人だけだ。「あんたが野放図に始めた戦争や高関税で世界が混乱しているんだから、あんた自身が止めればいいんだよ」というブラックジョークならそれなりだが、とてもそんな見方はできない。誰でも、トランプ万歳と言ったと判断する。

 発言の背景は容易にわかる。いわく、日米同盟絶対が前提で、なにがなんでもトランプの好感を獲得したい。昨年11月には、いうべきではない台湾有事発言をして中国の手痛い反発で日中関係悪化を招いた。ところが訪中を控えたトランプは、米中関係悪化を望まない。鉄砲玉が先走って親分の機嫌を損ねたのじゃあるまいか。

 さらにトランプがホルムズ海峡へタンカー護衛の艦船を出せという。法の建前を説明すれば速やかに一件落着であるが、なにしろ相手はトランプ、これとてトランプが国際法無視して火をつけたのが原因だが、ご機嫌を損ねてはならないという官僚的発想である。

 法に基づいた国際関係を高揚し、世界各国に働きかけるのは上等だが、わが身を顧みれば結局はトランプ的無法の片棒担ぐという次第で、世界に輝く日本の外交など絵空事でしかない。さらにいえば、日米同盟にべったり寄りかかる末路は、独立国としての誇りや主権をどぶに捨ててしまうことにもなる。

 政府が堂々たる独立国の王道を歩まず、「今がよければいいのさ」という場当たり的方針を振り回していれば、国旗損壊罪など掲げても、人々の愛国心を根元から崩しているのが権力者だという皮肉である。国防が亡国につながる恐れあり。