論 考

ミスを重ねないためにもミスは初動から改めよ

筆者 高井潔司(たかい・きよし)

 台湾有事をめぐる高市答弁が日本の国益にてらしても大きなミスであることは、前回書いた通りである。その後、当の本人がそのミスを認めないことから、波紋はますます拡大の一途をたどっている。中国側は批判のトーンを高めるだけでなく、経済制裁とも受け取れるような措置を次々と繰り出している。日本側はといえば、ここで中国の圧力に屈してはならずと身構え、高市発言を擁護する声を高める。高市答弁を引き出した立憲民主党の岡田議員らを批判する声さえ上がる始末だ。緊張の緩和の糸口が見えないからどころか、関係悪化の動きばかりが目立っている。

 そもそも火元は高市答弁にある。毎日新聞のインタビューに対し、質問した岡田議員でさえ、これはまずいとすぐ話題を変え、補足質問に立った同僚議員も発言の撤回を勧めたと、その経緯を説明している。またその後、米中首脳電話会談を行ったトランプ米大統領が高市首相との電話協議で「中国政府を挑発しないよう助言し、台湾についての発言のトーンを和らげるよう勧めた」と、米有力紙が報じた。木原官房長官はそのような内容はなかったと米紙に抗議しているが、日本政府高官に対する朝日新聞、読売新聞の報道を見ても、その趣旨のやり取りがあったのは事実のようだ。

 私が最も懸念するのはミスを認めないで、これを覆い隠したり、擁護するために、対立を煽ることだ。その一例が11月29日の読売新聞社説「世論戦で日本は後れを取るな」だ。まるで戦争前夜のような見出しを付け、高市首相を弁護している。読売はこの社説の隣の大型解説欄「スキャナー」でも「宣伝戦」という表現を使っている。よほど「戦」という漢字がお好きなようだが、これでは対立をあおるばかりだ。もう少し冷静な議論ができないのだろうか。

 読売社説は、「中国の、首相に対する個人攻撃は目に余る」と、中国の国営通信社が軍服姿で鏡に映っている首相の様子などを相次いで投稿していると指摘し、「こうした発信は、日中関係を悪化させた責任は首相にある、と印象づけようとする悪質なプロパガンダ」と非難している。読売社説のお怒りはわかるが、誰がみたってプロパガンダであり、何の効果もないのは明らかだろう。中国の反日主義者は喜ぶかもしれないが、全くの逆効果である。日本国民はもちろん、中国の庶民の中国政府に対する不信感が高まるだけではないか。これを中国が仕掛けた世論戦などと言って、対抗する意味がどこにあるのだろうか。

 そんなおどろおどろしい見出しを掲げた社説だが、最後になると、急にしぼんでしまう。「高市氏の認識自体は間違っていないが、手の内をさらしたという点では問題がある」と書いているのだ。ということは、今回の日中関係を悪化させた発端は、高市答弁のミスにあることを、この社説自体認識しているのだ。

 しかもこの社説は、「とはいえ首相が答弁を撤回すれば、仮に台率湾有事となっても存立事態の認定や、集団的自衛権の限定的行使に踏み切りにくくなる可能性があり、安保関連法を意味のないものにしかねない」と、結んでいる。そうしたジレンマな事態と日中関係の悪化をもたらした高市首相の責任を、この社説はどう考えているのだろうか。

 ミスや誤りを正すのではなく、それに対する批判を抑えようとする。それを、メディアを使ってやる。それこそが宣伝戦であり世論戦である。戦前の「失敗の本質」に学べというと、これまた中国の世論戦に加担したと叩かれそうである。

 11月28日の毎日新聞の政治資金報告書に関する報道によると、高市氏は2024年の自民党総裁選で8000万円を超える宣伝費を使ったという。2位の小泉氏は約2000万円。高市氏はなかなか宣伝戦にたけているようだ。