論 考

トランプは単なるデマゴーグにあらず

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 放埓、無法にして無謀、他人から見れば何をしでかすかわからない。こんな人物がアメリカ大統領なのだから正常な人間には堪らないだろう。その軌跡から狙いが見える。わたしは、予想以上に質の悪い人物だと見る。

 トーマス・ホッブス(1588~1679)には、『リヴァイアサン』(Leviathan)という著作がある。1651年に発表された。国家を海中に棲む巨大な怪獣にたとえた。

 自然状態では、人間は万人が万人に敵対し闘う状態にある。それは暴力が猛威をふるう混乱した世の中である。相互の契約により主権者としての国家を作り、万人がそれに従うことによって平和が確立されるとする。

 これは社会契約とはいいつつも、国家たるのは王であって、人々は絶対服従を強いられるのである。まさにリヴァイアサンである。

 これは王権神授説へつながる。君主の権力は神から授けられたもので、人民に犯行する権利はないとする。この理屈を駆使した有名な人物は、イギリスのジェームズ1世(1566~1625)、フランスのルイ14世(1638~1715)などである。

 現代のアメリカ民主主義は、1960年代の黒人を中心とした公民権運動がベースになっている。それが白人至上主義にくさびを打ち込み、人種性別などに関係なく自由闊達に生活する社会をめざしてきたが、トランプはまさに白人至上主義を復活させ、70年に及んで育ててきた民主主義を破壊しつつある。

 と、わたしは思っていたのだが、それだけでは終わらない気配である。トランプが『リヴァイアサン』の愛読者かどうかは知らないが、やっていることを見れば、白人至上主義の復活にとどまらず、絶対権力としての王権をめざしているみたいである。

 そのためには、民主主義の破壊にとどまらず、社会をガタガタに混乱させる。混乱のルツボで、自分がリーダーシップを発揮して絶対権力確立をさせようとするのではないか。言うこと、やることが破天荒で脈絡がないのは、要するにひたすら社会の混乱を作るべく暴れているからだろう。

 トランプの評価がさまざまあるが、現代の政治・経済における学問による解釈だから、トランプが400年以前の理論に基づいて行動しているとすれば、真実的中とはいかない。

 つまり、トランプが現代的理解によるデマゴーグ(扇動政治家)だと分析したのでは、彼の本質を突いていない。本質は、社会秩序の破壊であって、くれぐれも油断してはならない。

 こんな調子だから、アメリカが世界のリーダーなど望むべくもなく、西側のリーダーとして見た場合でも、習近平、プーチンに対する威信の影が薄い。どこかの首相のようにミーハーして舞い上がってはいられないだろうに。