週刊RO通信

「華麗なる? 笑劇」のNATO

NO.1621

 6月26日NATO(北大西洋条約機構)は、加盟各国防衛費のGDP比率5%を採択した。アメリカはNATO各国の防衛費引き上げをオバマの時代から要求していた。トランプは提唱というより恫喝しており、それだけNATO各国の反発も強い。と見ていたが—-

 急転直下、「トランプ大統領、親愛なるドナルド、あなたがこの変化を可能にした」。「あなたは何十年もの間、どの米大統領も成し得なかったことを達成する」。「欧州は大きな額を払うことになるでしょう。そうすべきであり、これはあなたの勝利です」(NATOルッテ事務総長)と、聞いているほうが赤面しそうなグレート・フラッタリングだ。

 先日のG7サミット(カナダ)では、トランプ抜きお歴々が記念写真に納まったが、今回は、ご機嫌うるわしいトランプも加わり、首脳がぞろぞろ揃った写真ができた。まさに、笑劇的大団円という次第である。

 笑劇、フランス語のファルスは、もともとひき肉の詰め物の意味で、芝居の幕間に挟んで演じられた。日常の卑俗な場面を題材とした短いお笑いだ。NATO各国の防衛安全をかけた議論だから卑俗と言っては失礼だが、なにしろ筋書がトランプのご機嫌とりだから仕方がない。

 外電には、「ルッテがなぜそこにいるのか? トランプに対する世辞と追従の適役だからだ」という表現もあった。気取って歩いている紳士がバナナを踏んづけてすってんころりんするのが、ドタバタ喜劇の手法の一つだが、スーツをピシッと着こなした紳士連が、追従。揉み手というのも右に同じだ。

 そうではあるが、各国の思惑は簡単に揃うものではない。GDP比がポーランドは4.07%だが、イギリス2.33%、スウェーデン2.25%、ドイツ2.10%、フランス2.03%、イタリア1.50%で、その他各国はそれ以下である。当然ながら反発もあるらしい。(アメリカは3.19%)

 今回、NATO側は相当入念な準備をしたようだ。狙いはもちろん、NATOを袖にしかねないトランプを引き留めるためである。記念撮影の前か後はわからないが、スナップ写真を見ると、おおかたの面々がトランプに向けて追従笑いを浮かべている。

 ただ、ゼレンスキーだけが憮然(?)とした表情である。無理もない。この1月から、ウクライナは対ロシア防衛戦争の戦線に、トランプ攻略を加えざるを得なかった。トランプがどんな不満を募らせているか、知っていたからである。その最初の会談がバンスの露骨な嫌がらせでひと悶着起こして、世界中の注目を浴びた。

 トランプも今回はまあまあ無難に会合を過ごした。お調子者の暴君だから、ヨイショされて悪い気はしない。それに、GDP比2%に満たない国が多いのに、一挙5%という数字が「獲得」できたのだから、中身がどうあろうと鼻をピクピクさせる。

 NATOの最大の相手はプーチンのロシアである。プーチンは、ウクライナ攻撃を止める素振りもない。ウクライナはNATO加盟国ではない。ただし、アメリカがロシアとの約束を無視してNATOの東方拡大を推し進め、ウクライナはNATO加盟に動いてきた。その文脈上でプーチンの戦争に放り込まれたのだから、いまさらアメリカもNATOも、ウクライナを見殺しにはできない。責任重大である。

 トランプは、「我々と共にNATOは非常に強固になる」と自画自賛するが、目下の大火事の始末を語らずして、その強化の中身とは何なのか。「GDP比5%引き上げによって軍拡戦争がプーチン体制の崩壊につながる可能性がある」という弁明的理屈もあるそうだが、現実主義者らがはかない夢に期待するなど、まったくあほらしい。そもそもウクライナ戦争は軍拡が原因だ。

 策士は、トランプを引き付けその気にさせて、プーチンとの交渉に本腰入れさせようと画策したのだろうか。さて、トランプが意味のある動きを起こすだろうか。はっきりしていることがある。トランプは形成不利な取引から逃げる。交渉術に長けているのではなく言い訳帳尻合わせがうまいのだ。今日の約束が明日も有効だとは保証できない。

 幕間の次は、本番舞台の幕が上がらねばならないが。