筆者 高井潔司(たかい・きよし)
――友人とのチャットから——
「今朝の読売は面白い。こんなこと書いて中国総局長は逮捕されないのかね?! 心配です」
同じマンションの飲み仲間で作っているLINEのグループチャットに、政治談議が好きな一人が、記事の写真を貼り付けて、こう書いてきた。読売の元北京特派員で、何かと中国の肩を持つ、私への皮肉を込めた書き込みではと想像し、つい挑発に乗って反論をしてしまった。
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記事をそのままコピーしてここに貼り付けると著作権違反で訴えられても困るので、記事のさわりだけをまず紹介しておこう。
1月12日付読売の国際面に掲載された[ワールドビュー]「ダブル有事」に備えを——という記事である。
この記事は「中国の武力行使が引き起こす台湾有事、北朝鮮の暴発で始まる朝鮮半島有事は、東アジアの平和と繁栄への最大のリスクと言える。近い将来の二つが同時に起きる「ダブル有事」の可能性はあるのだろうか。日米韓の軍事専門家らの間で議論が始まっている」と書き出し、「偶発的な衝突が台湾周辺や朝鮮半島で連鎖的に発生し、エスカレートする事態が最も危険だ」、「習近平国家主席が台湾への武力行使を決断すれば、北朝鮮金正恩総書記をそそのかし、韓国への武力挑発を行わせるだろう」と日本の国際問題の専門家や韓国の元閣僚の発言を紹介する。
その上で、「偶発的であれ、意図的であれ、ダブル有事では米軍は二正面作戦を強いられる。日米韓にとって極めて不利な展開となる。ただ、ダブル有事を避けたいのは中国も同じだろう。台湾有事は米軍の介入を招き、共産党政権の存亡をかけた戦いになる。台湾に戦力を集中するために、朝鮮半島で事が起きては困る――。これが中国の懸念ではないだろうか」と分析する。
そして中国が昨年12月、台湾周辺などに軍艦艇など90隻以上を展開させ、過去最大規模の海上軍事行動を行ったとの最近の中国の台湾への圧力強化を強調する一方、朝鮮戦争時、中国が朝鮮半島情勢をコントロールできず、台湾への武力侵攻を後回しにした歴史を忘れていないとも回顧する。
その上で、「台湾海峡と朝鮮半島の有事が再び連動するのか。力による現状変更を阻むため、日米韓は備えを万全にすべきだ。抑止力や対処力の強化でどう役割分担するか。万一の事態に在留邦人の保護はどうするか。検討すべき課題はあまりに多い」と結論している。
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どうも最近、日本では、中国は誰でも彼でも中国を批判する人を逮捕すると考える人が多く、「高井さんも北京に行ったら逮捕されるでしょ。大丈夫かい」と声を掛けられることもある。
そこで私はまず「中国は本当に機密にしている情報を書いたら、誰が漏らしたか、捜査し、関係した記者も取り調べるが、こんなたわいもない作り話にはほぼ反応しない。反応したら、それが本当か嘘か認めることになるからね」と書き込んだ。
その上で「この記事で中国から得た情報は何かありますか? 北京にいて何も中国から取材していない。中国について書いてある部分はすべて彼の推測だ。取材もしないで記事を書くなんて楽な商売だね」とまで指摘した。
すると、「なるほど。でもいかにもありそうなアベ君派を煽るような記事を書く読売の意図は? 埋め草にしてはタチ悪いけど」と聞いてきた。
「そりゃあなたのように、この記事は面白いと読む人が多いからでしょう。事実よりも面白いかどうかで読む。それならSNSの方が面白いと新聞の読者はむしろ減っていく。自ら墓穴を掘っているわけです」「新聞にしろSNSにしろ、まじめに考えるならその情報の情報源、何を根拠にかいているのか、しっかりチェックすることが大事です。その点をあいまいにしている記事は作り話です。その事は差し上げた私の本でも満州事変報道に関して強調したところです。もう寝ますので後は自習してください」と、私はこのおしゃべりを締めくくった。
新聞は近年、発行部数が半減し、新聞発行では経営が悪化している。記者教育がおろそかになり、紙面の劣化が甚だしい。北京特派員が中国で取材した結果を報道するのではなく、日本や韓国の専門家の声を基に記事を書くなんてありえないことだ。北京にいる必要はない。もし私が編集デスクに座って居たら、記事をボツにして、記者にレッドカードを出すだろう。
こんな記事でもまだ反応してくれる読者がいてくれて有難い限りだろうが、この友人、たまたま泊まったホテルで無料の新聞をもらって読んだ上での感想だった。自宅で新聞を購読する人はどんどん減っている。
