NO.1593
アメリカの『TIME』誌の恒例「今年の顔」(Person of the Year)にトランプ氏が選ばれた。2016年に続いて2度目である。
同企画は、1927年にニューヨークとパリ間を単身大西洋横断無着陸飛行に成功したリンドバーグ(1902~1974)が第一番で始まった。選定基準は、良くも悪くもその年の出来事で最も影響を与えた人物の写真を『TIME』の表紙に扱い、その人物のプロフィールを掲載する。
1932年、非暴力・不服従主義によって、イギリスからの自治拡大、独立の実現を引っ張ったガンジー(1869~1948)が登場した。
1978年と1985年の鄧小平(1904~1997)は、文化革命で2度にわたり失脚したが復活し、中国の最高実力者となり、改革開放政策を主導した。1978年からの中国の変化は目覚ましい。
芳しからぬ評価の人物の筆頭は、1938年、オーストリアとズデーテン地方をドイツに編入した、ナチのヒトラー(1889~1945)で、翌年第二次世界大戦を引き起こした。政治家か、ギャングか区別がつかない。
ロシア(ソ連)では、スターリン(1879~1953)が1939年、独ソ不可侵条約締結とポーランド侵攻で登場。日本の平沼騏一郎内閣は、意外な事態に対応できず総辞職した。1942年には、スターリングラード攻防戦の指揮を執って英雄的に! 登場した。
1957年、フルシチョフ(1894~1971)は、史上初の人工衛星スプートニク1号打ち上げで世界の注目と西側の警戒を集めた。宇宙時代の今日からするとまさに隔世の感だが、夢のような話で誰もが驚いた。
ゴルバチョフ(1931~2022)は、ペレストロイカ(立て直し)と自由選挙で、1987年、89年の二度登場した。停滞、腐敗のソ連社会主義を立て直す壮大な挑戦だったが、志半ばで終わってしまった。
プーチンは2007年に登場、ゴルバチョフ時代の混乱を克服したものの、すでに独裁者の懸念を抱かせた。そして、いまのウクライナ戦争である。
2022年には、「ウォロディミル・ゼレンスキーとウクライナの精神」と題して表紙を飾った。ゼレンスキーは2019年から政治的混乱のウクライナ大統領に就任した。2022年2月にロシアの侵略をうけるや、ゼレンスキー指揮の下、ウクライナ国民は目が覚めるような結束を図って自衛戦争に立ち上がった。その逆境に耐える力と抵抗を、ウクライナの精神と称えた。
ウクライナ戦争は来年2月で丸3年になる。当初、戦争を収拾する機会があったという指摘もあるが実現せず、現状は泥沼だ。最近、ゼレンスキー発表によれば、ウクライナの戦死兵は43,000人・傷病兵は37万件、ロシアは198,000人と55万件だという。正確なところはわからないとしてもまことに悲惨な状態である。
トランプは、自分がウクライナ戦争を止めさせると広言している。トランプは、ウクライナが米国供与の長距離兵器でロシアを攻撃したことに反対した。ロシアは援軍来るとばかり、ロシアの立場と完全に一体化していると歓迎した。誰が侵略戦争を起こしたのかすっかり忘れたみたいである。
また、トランプはウクライナに対するアメリカの支援削減をたびたび吹聴している。それが現実化すればウクライナの戦闘能力が大きく低下する。トランプの即時停戦論は、ウクライナの自衛・抵抗戦争を止めさせることであり、プーチン・ロシアにとっては願ったりかなったりだ。
トランプがウクライナを恫喝! して停戦するようなことではいかん。トランプがプーチンに貸しを作ることができても、それでは結局、ギャング同氏の手打ちとなんら変わらない。
2024年の「顔」について、『TIME』は、――大統領への歴史的復活、トランプ流一世一代の政治的再編、前世紀に定義した制度への不信の拡大、リベラルの価値観が生活の向上につながらないという世論を引き出した――と説明している。いわゆる民主主義のもろさ論と重なる。
韓国では、尹大統領がトランプの亜流を試みて大失敗した。
良くも悪くも、『TIME』の表紙が政治家個人を採用すること自体が、民主主義のもろさを語る。民主主義とは名もなきわたしのことなのだから。
