NO.1588
日本人がノーマルだというのではない。はちゃめちゃな話はたくさんある。まして政治の世界においておや。そうなのではあるが、アメリカ大統領選挙を眺めていると腑に落ちないことがいろいろある。すっきりしない。
選挙の終盤予測では大接戦のはずだった。当選確定は数日、いやもっと時間を要するかもしれないと報道されていたが、大差でトランプ再選。選挙戦後半になるほど、罵詈雑言に加速がついたのは、トランプ氏自身も危ないと思っていたのだろうが。それにしても、意識調査と結果の乖離が大きい。
戦いすんで日が暮れて、民主党では敗戦責任の所在探しに躍起らしい。バイデン氏が撤退を判断するのが遅すぎた。当初は本人も、高齢だから1期だけと表明していたが、トランプ打倒で欲が出た。現職の支持率が不支持率を下回った場合の後継者はすべて敗北しているじゃないか。極めつけは、バイデン氏のレガシーはトランプ復活の道を開いたことだ、など散々である。
得票率を2020年選挙と比較すると、トランプ共和党陣営は、白人2%増・黒人10%増・ヒスパニック19%増、男では6%増・女では5%増、18~29歳は14%増・30~44歳は13%増・45~64歳は6%増。かたや、ハリス民主党陣営は65歳以上だけ4%増であった。
トランプ氏は、極度の白人主義者で差別主義者である。にもかかわらず、差別されている各層において、得票率が上がった。奇妙である。
差別されている人は、差別する連中に反発するのではなく、差別できる対象を探して自分も差別するという見方がある。移民である人々は、移民に同情するのではなく、自分たちの立場が危うくなるから、移民叩きに拍手する。これでは、まるで『蜘蛛の糸』のカンダタと同じだ。
民主党のサンダース氏は、「民主党が労働者階級を見捨ててきたのだから、彼らに見放されても当然だ」と断言する。ハリス氏には、ハリウッドのスターなどセレブの応援が華々しかった。それが労働者などの反感を買ったともいう。選挙戦の最中には、力強い応援だと報道されていたのだが。
ハリス氏は女性票も伸びなかった。大統領は男の仕事という固定観念が、まだ払拭できないともいう。これは保守層にはとくに強いだろう。女性大統領を希っていた女性の、「いつかは女性大統領が実現する。いまでなかっただけだ」というしんみりした発言にひかれた。
民主党のアイデンティティ政治が嫌われたという説もある。優等生すぎる。それが、人々のエリート批判と重なったともいう。本当だろうか。
物価が高い。100の理屈よりも目の前の生活だ。という理屈は現実味がある。しかし、少し距離をおいてみれば、トランプ応援団のマスク氏も含め、トランプ氏が庶民の味方という解釈がどうもよくわからない。同じ穴のムジナ、あるいはもっと貪欲な資本家・経営者が見えるからだ。
トランプ氏は米国史に間違いなく名を遺すだろう。希代のアジテーターとして。嘘とはったりをきかせ米国政治をかき回した先人に、マッカーシー上院議員がいる。共産主義大嫌いの人心に火をつけた。大騒動のあと、極論すれば、米国人は煽られると乗りやすいというだけだった。
トランプ旋風もしかり。それも実に単純な嘘が多い。後半は、嘘と指摘されても居直った。難しいとか複雑なレトリックではない。それが、支持者には堪えられない魅力のようだ。ここに、扇動の危なさがある。
扇動に乗りやすいのは、社会が病んでいるからである。社会に不満が渦巻いているとき、人々は怒りの矛先をぶつける対象を求める。トランプ氏は徹底して人々を煽り立てた。人々の選択は、理性よりも、とにかく力だ。
アメリカ的民主主義の最大の欠陥はなにか? 民主主義の出発点は「人間の尊厳」である。真の民主主義ならば、それは自国民だけではなく、世界中いずれの国の人々にも適用せねばならない。現実は力優先、自国第一。
言葉を代えれば、アメリカは内に民主主義? だとしても、外には明確に帝国主義そのものだ。一貫して米国第一主義である。民主党は、トランプ氏が白人特権階級主義だと批判するが、外から見れば、民主党も含んで米国人全体が白人特権階級主義を世界に押し付けている。病んでいる結果としてトランプ氏が登場した。内外に米国政治の劣化が巨大な影を落とす。
