論 考

権力は社会を破壊する

 前大統領トランプ氏の弾劾裁判は、表決――有罪57、無罪43で、有罪が100名中2/3に満たないので無罪評決となった。この結果は、事前に予想されていた。

 共和党議員17人が有罪に投票しなければ2/3には到達しない。まともな共和党議員は悩んだであろう。公明正大な政治家としての矜持と、トランプ支持者の意向との間で揺れ動いた。

 活路は、トランプ氏の大統領任期が終わっていたことにあった。大統領弾劾は可能だが、元大統領弾劾は憲法違反だという、隙間的理屈に頼った。

 民主党議員も、バイデン大統領のスタートに当たり、過ぎ去った時間の国民的紛糾を再燃させることとの利害得失を考慮しただろう。

 トランプ氏が人々を扇動したことは否定できない。有罪にこだわらず、議論を通して実質的に裁判の意味は達成したと判断しただろう。

 共和党上院院内総務のミッチ・マコネル氏が、トランプ氏には1月6日の議会襲撃の実質的・道義的責任があるとコメントし、加えて、事件発生当時にトランプ氏が拱手傍観したことを、みっともない、無様な任務の放棄だと断じたのも、その文脈にある。

 今度は、トランプ氏は、刑事司法、民事訴訟で一市民としての法的責任を追及される。

 トランプの4年間が提示したものは何か。

 「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」という言葉が知られている。むしろ、これは生ぬるい。「権力は社会を破壊する。絶対的は権力は絶対的に社会を破壊する」というべきだ。