月刊ライフビジョン | 社労士の目から

働き方の多様化と労務管理及び社会保険

石山浩一

 副業・兼業を希望する者が年々増加傾向にある。そうした中、厚労省は安心して副業・兼業に取り組むことができるよう、副業・兼業の場合における労働時間管理や健康管理等についてのガイドラインを示している。

 勤務時間外の時間をどのように過ごすかは個人の自由である、との考えがある。厚労省が示すガイドラインも、副業・兼業は合理的な理由なく制限はできず、原則、副業・兼業を認める方向となっている。

 しかし、使用者と働く者は労働契約等によって一定の制約があり、下記に該当する場合は会社側に不利益となるため副業・兼業を制限することがある。

  • 労務提供上の支障がある場合
  • 業務上の秘密が漏洩する場合
  • 競業により自社の利益が害される場合
  • 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する恐れがある場合

“労務管理関係”

 労基法第 38 条第 1項の規定は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用は通算するとなっている。そのため時間外労働のうち、時間外労働と休日労働の合計で月100 時間未満、複数月平均 80 時間以内の要件について、使用者は副業を希望して採用する場合は、採用者の自己申告によって副業・兼業先での労働時間を把握しなければならない。

 事業主Aのもとで5時間働いているYさんは、副業として事業主Bさんと雇用契約を結び4時間働いている。その結果、労働時間を通算したら法定労働時間を(9-8)1時間超過することになった。この場合、後で働いた事業主Bさんに超過した分の割増賃金の支払い義務が生じることになる。

 雇用保険ついては週20時間以上で31日以上雇用が見込まれる場合は被保険者の手続きをしなければならない。従って、事業主Aさん及び事業主Bさんともに加入手続きをしなければならない。

 労災については労働時間に関係なく労災が発生した事業主の責任となる。この場合の休業給付額については、今年9月より複数の事業場における賃金額を合算して労災保険給付を算定することになった。従って、事業主Aと事業主Bから支払われる賃金の合計額の80%(休業補償給付+特別給付金)が支給される。

“社会保険関係”

 社会保険(健康保険及び厚生年金保険)の加入条件については、事業所ごとに判断する。勤務時間が20時間/週以上、賃金が88,000円/月以上、1年以上勤務が見込まれるもの、従業員が常時500人以上である場合は強制適用事業所となる。

 但し、複数の事業所と雇用関係があって勤務する場合、それぞれの事業所において合算して適用条件が満たされても、単独で条件が満たされない限り被保険者とはならない。

 一方、同時に複数の事業所に勤務して、それぞれの事業所で被保険者条件を満たす場合、被保険者はいずれかの事業所の管轄の年金事務所及び健保組合を選択する。選択された年金事務所及び健保組合は各事業所の報酬額を合算して標準報酬月額を算定して保険料を決定する。その上で、各事業主は、被保険者に支払う報酬額により案分した保険料を選択した年金事務所及び健保組合に納付する。今回の例では事業主Aさん、事業主Bさん双方に加入義務があり、選択された事業主が保険料を納付することになる。


石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/