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「未払い賃金」が消滅する?

おかぼん

 日本経済新聞に「残業時間 公表義務付け」という記事。異常な長時間残業により過労死が出る時代だから大いに結構な話ではある。
 記事には「労務管理の事務が増え企業側からは慎重論も出そう」などともあるが、そもそも大企業が残業時間を公表するのにどれだけ事務が増えるというのであろう。きちんと残業代を払っている企業なら、その総計を取りまとめて公表することなど、そんな事務の増加というほどのことではないと思う。労働時間数と生産性の関係は人事管理の最大関心事であるはずなのに、時間管理がズルズルなのは人事部門のサボタージュではないのか。
 ともあれこのようなさまざまな取り組みにより、サービス残業やダラダラ残業を中心に、残業は今後漸次減っていくのであろうが、大幅な賃上げがなければ、残業の減少はすなわち所得の減少となって、それは消費減へとつながり景気の後退になりかねない。「適度な残業が最大多数の最大幸福」と主張する者がいるが、今の日本の現状を言いえて妙である。
 そうならないためとして、政財界はことあるごとに成果主義を主張してきたが、理屈はごもっともとしても、成果主義の導入は1990年代、景気後退期に成果の定義もあいまいなまま、給料の総額を抑える目的に使われてきた、大いに怪しい制度である。労働者の適性に合わない配置や、成果を数値化できない業務は社内に少なくない。
 そんなことよりもっと大きな盲点がある。
 民法改正案が可決され、商事債権の消滅時効が5年に統一された。これにより商事債権である賃金債権も5年になるはずが、民法の特別法である労働基準法の規定に手を付けなかったため、そのまま2年に置き去りにされることになった。
 サービス残業の未払い賃金を請求された場合、最高でも2年分か5年分かでは企業側のリスクは全く異なる。労働基準法の改正では残業時間の上限で相当やりとりがあった模様だが、賃金債権の消滅時効にももっと目を向けてほしかった。
 「賃料値切りただ働き」に労働者自身がもっとシビアにならないと、政財界優位の階級社会がますます強化されてしまうのではと心配している。