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失われた20年-労働組合の場合

おかぼん

 この国は一体いつから総理大臣が春闘をするようになったのだろうか。利益の出ている企業にデフレ脱却のため3%以上の賃上げを行うよう要請する。要請に応えない企業に税制面で不利益を与える。一昔前の感覚では信じられない光景である。労働組合が組合員の生活改善のため賃上げを要求し、それに応えないときに残業拒否やストライキを手段に交渉するのが本来の春闘である。

 ところで3%以上の賃上げは、何と1994年以来20数年にわたって行われていない。保守的な経営者にしてみれば、自らが長く経験していないので賃上げには相当な覚悟がいるであろう。組合側にしてみても長期間3%以上の賃上げを勝ち取っていないのでその感覚が分からないだろうし、ましてやストライキなど、どのタイミングで始めてどのように終わらせるかなど、理屈では理解できても経験的に全く分かっていないのではないだろうか。これも悲しいかな、失われた20年である。

 結果、日本経済新聞一面に「日本の賃金、世界に見劣り」などと書かれるのである。今まで賃上げ交渉の際、経営者には事あるごとに「賃上げは生産性向上の範囲内」でと言われてきたが、今や生産性を上げても賃上げが全く追いついていない。最近5年で生産性は9%伸びたのに対し、賃金は2%しか伸びていないという。一体その差7%はどこへ消えたのだろう。この間、労働組合は何をしていたのだろうか。

 そう言えば、昨年の民法改正により商事債権の消滅時効は5年になったが、労働債権は労働基準法があるために2年のままだ。本来、労働基準法は民法で守りきれない労働者を保護するために作られた特別法ではなかったのか。さすがに放っておけず、こちらは厚生労働省が検討会を開始した。世の趨勢としていずれ労働基準法も5年になるだろうが、結果として、残業代の未払金も有給休暇の繰越も5年遡って請求できることになる。

 やった残業代はしっかり支払われ、有給休暇は100%取得する時代は近い将来確実にやってくるだろう。なぜなら未払い残業代を5年前から遡って支払い、退職5か月前から有休消化などということはおよそ考えられないからである。結構なことである。しかし、これを労働組合が当たり前に要求して勝ち取ったものでないことが何とも情けない。