筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)
4月14日未明、イランのイスラエル攻撃が世界中に衝撃を与えた。16日新聞各紙は、「イランの攻撃 報復の連鎖 総力で断て」(朝日)、「イランの攻撃 関係国は報復の連鎖断ち切れ」(読売)、「イランの大規模攻撃 報復の連鎖断ち切る時だ」(毎日)と、社説で主張が揃った。
衝撃の理由は、これが中東戦争の引き金になるのではないか。ウクライナ戦争、ガザ侵攻の長期化で、世界中が拱手傍観、打つ手なしの事態にうんざりしている。厭戦気分が起こっているが、なにも変わらない。
そこへ中東戦争が本格化するとなれば、世界大戦への危険性がますます高まる。遠くの戦争だと無視していられない。超大国をはじめとして、毅然としてブレーキがかかるとは思えないからだ。
内外の政治家の信頼度は、極論すればまったく地に堕ちた。華麗な国際会議風は多いが、本気で決める腹が座っていない。
「NATOでどれだけ首脳会議が開かれても、感動的なスピーチが相次いでも、プーチンの思惑通りになる可能性がある」と、嘆いたのはBBCのコラムだが、ウクライナ戦争だけではなく、あらゆる紛争に通底するというべきだ。
戦争は政治家によって管理されるものだという迷信が暴露されている。軍事力強化で相手がひるむという迷信、逆に軍事力拡大は世界中スパイラルで拡大する。武器はますます高性能化するが、実のところ、それを統御管理する政治家の能力がないのだから、世界中が狂人に刃物どころではない、世界を破滅させるような危険なおもちゃを弄んでいる。
たとえば、イランは、イスラエルが在シリアのイラン大使館を空爆したことに対する報復だとする。そのまま放置したのでは、国内がもたない。しかし、本格戦争となれば、リスクが大きすぎる。だから、イスラエルを空爆して直ちに、この作戦はおしまいと発表する。イスラエルが暴発する恐れはないと期待しているに過ぎない。
イスラエルもまた、国内政治が安定せず、ネタニヤフが退陣を迫られている。それを避けるために、極右勢力が外への攻撃を宣揚する。イランとの関係ではイスラエルが優れた軍事力をもつにせよ、頼みのはアメリカだ。アメリカと袂を分かつてまで長期戦争を戦うのは大きなリスクである。
国内政治が円転滑脱でない分、人々の目を外に向けさせるという、きわめて古い常套手段が21世紀の今でも大きな顔をしている。
軍拡競争は、まさに死に金、いや、死に知恵である。少し頭を切り替えて、どうせやるなら福祉国家作りコンペをやればよい。国内の知恵はおおいに集まってくるし、人々の政治的関心もまっとうに育って、戦争などやろうというのはバカしかいないという世論が形成されよう。
岸田氏の能天気極まるアメリカでの笑顔を見ていると、とても同時代を共にする人とは思いにくい。場当たり主義者の、いいじゃないの、今が良ければという無責任が世界中に広がっている。コロナより、もっと怖い。
「経済再生 実感をあなたに。」という自民党の新しいポスターには、この党がすべてに時代対応能力を喪失してしまっている事実を見事に反映している。