月刊ライフビジョン | 家元登場

奇貨居くべし

奧井 禮喜
迷路の日本経済

 そごう西武労働組合が8月31日にストライキを決行した。マスコミでは、百貨店業界の労働組合では61年ぶりだと騒動するが、いずれの記事を見ても、取材する側の勉強が不足している。そんな事情にもかかわらず、街頭インタビューをうけた人が、「労働者の権利だからがんばってほしい」と語るのは、おおいに嬉しい。他人事ではない。営利企業だから儲けなければならないが、それだけでいいだろうか? ステークホルダーは株主だけではない。核心をいえば、働く人々が職場を確保でき、雇用不安なく仕事に打ち込めることこそ最大の経済対策である。日本経済がズルズルと低落するのは、非正規従業員が40%にも及ぶからだ。安倍内閣が、企業の都合だけ斟酌した政策を打ち出したからだ。それで経済が好転するどころか、ますます出口の見えない事態を深めている。そごう西武労働組合のストライキは1日だけだが、働く人々の怨嗟の思いが詰め込まれている。

暗い人々の気風

 1970年代までストライキはかなり決行された。働く人々の不満が噴き出すのは実は経営活動が元気な証明である。当然ながら、1人ひとりが最前線で仕事をしている。都合のいいことも不都合もみんなが体験する。それが日常的に全体で共有されるから会社は元気を維持できる。これがおかしくなったのは、1980年代だ。経済好調で労使ともにたるんだ。問題があっても見ない。儲かっているからいいやと高をくくっていると、1990年代前半、バブルが崩壊した。会社は一転して従業員をきりきり締め上げる。ところが組合の対応が締まらなかった。組合役員になるのは、くじ引き・輪番制・先輩の口車の3点セットが当たり前だった。団体的労使関係のバランスが崩れた。もちろん、個人的労使関係でばりばり発言できる人は少ない。職場のコミュニケーションはどんどん悪くなった。照明が明るくても人々の雰囲気は暗い。1990年代から、これが職場の文化である。

突き上げこそが力

 ストライキは、もちろん要求貫徹のために効果的に駆使されねばならない。組合員の結束の強さを鼓舞するために、「1円のためであってもやるときはストをやるんだ」という表現が組合の金看板である。職場に入ると、もっと元気な声が聞かれた。典型的な声は、「賃金が上がらんでもいい。だれが会社を動かしているか、教えてやるんだ」という。執行部が労使関係を引っ張っているのではない、組合員が突き上げ! ていた。新米執行委員などは職場を敬遠する。組合員の突き上げが怖いというわけだ。しかし、執行部の力とは、組合員の突き上げの総和である。突き上げがなくなって実に久しい。いまの執行委員は突き上げという言葉を知らないのじゃなかろうか。おとなしい組合員が元気な執行部を生み出すわけはない。この状態が四半世紀以上続いている。働く人々が職場の問題を自分たちで解決していく仕組みが構築されない。こんな事情でのそごう西武労働組合のストである。

連合は性根を入れよ

 百貨店の労働組合としては61年ぶりのストライキだ、というのは事実であるが、百貨店の組合だけではない。連合傘下の全組合においても元気がなさすぎる。今回は産別のUAゼンセンが立った。連合が、これをボケッと見ているのはダメだ。女性が会長に就任したので2年前にはエールを送ったが、苦手(?)の政治問題にかき回されて、労働組合運動を再生・活性化させようという気迫が見えてこない。野党を強くするのは、連合役員が野党間を仲介することではない。労働組合運動を強くすることが、必然的に性根の入った野党を育てる。連合会長芳野氏の2期目が開始するが、このままではいかん。労働組合運動を活性化するにはどうするか! いまの組合は(執行部だけの)組合活動しかやれていない。組合活動ではなく組合運動の構築へ。2年の任期は長くはない。しかし、芳野氏が種を撒くことはできる。そごう西武労働組合の決起を無にしないでほしい。


奥井禮喜 有限会社ライフビジョン代表取締役 経営労働評論家、OnLineJournalライフビジョン発行人