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春闘満額回答続きは組合潰しの尖兵か?

おかぼん

 歴史的な物価上昇の続く中で迎えた集中回答日、高水準の賃上げの回答が相次ぎ、製造業の主要企業の満額回答は全体の86%に達した。3年前までメーカーに勤務していた私の知る限り、これほど満額回答が相次いだ例を知らない。

 振り返れば、私が子どもであった高度成長時代、春闘と言えばストで何日も電車やバスが止まり、物価も上がったが賃金もそれ以上に上がった。それが、オイルショックで流れが変わり、前年の物価上昇分を取り戻して実質賃金を維持する春闘となってバブル期まで続くが、この間に春闘からストが消えていった。

 バブルが崩壊すると賃上げより雇用というわけで、物価も上がらないが賃金も上がらない状態が続いた。それで、雇用が維持されたかというとそうではなく、リストラの名の下、赤字でもないのに希望退職が繰り返され、緩やかな景気回復と言っても、正規労働者は増えず、増えるのは非正規労働者だけという状況。デフレ脱却ということで首相が賃上げを促しても効果はなかった。

 賃上げをせず、かといって設備投資もしなかった結果、企業の内部留保は膨らみ続け、2021年度516兆4750億円とGDPに迫ろうとしている。そのような中、先進国の中で見劣りする賃金では優秀な人材を確保できないとようやく賃上げの動きが出てきた。

 春闘とは関係なく、賃金水準を大幅に上げる企業や、物価が上昇したからということで調整手当を支給する企業が相次いだ。春闘に合わせて、早期に満額回答をした企業もその実情はよく似たものであろう。必要に迫られ、手元に潤沢な資金があるため出せたわけである。

 今回の回答は、組合が勝ち取ったものではないと言える。本来春闘は、企業別組合の限界を克服するため、産業ごとに交渉スケジュールを調整し、足並みを揃えた要求と回答引き出しに向けて、多くの組合が結集して単体では獲得できない賃上げを獲得することに意味があるのであり、今年のように組合が設けた回答日より前に、組合の動向とは関係なく社長が賃上げを発表するケースが相次ぐと、統一闘争の仕組みが崩壊するということになりかねない。

 物価の上昇は当面続くと思われる。今から来年を予想するのは困難だが、春闘のスケジュールとは関係なく賃上げが行われることが繰り返されると、春闘とは、ひいては組合とはという危険性をはらんでいる。組合の組織率が低下する中、そうならない策を今から講じる必要がある。