月刊ライフビジョン | 社労士の目から

フリーランスと社会保障

石山浩一

 2021年3月にフリーランスが安心して働ける環境を整備するためのガイドラインが策定された。

 ガイドラインが、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で出された点が象徴的である。このことはフリーランスの問題が多岐にわたることを示しているが、フリーランスとは多義的な雇用によらない働き方をしている人たち全般を指すことが多い。2020年の政府の全国調査では462万人(本業214万人、副業248万人)と推定されている。なお、雇用労働者の数は5620万人である。

 フリーランスガイドラインにおけるフリーランスの定義は、「実店舗がなく、雇人(やといにん)もいない自営業者や一人社長であって、自身の経験 や知識、スキルを活用して収入を得る者」とされている。

 フリーランスの労働者性

 政府はフリーランス保護のための社会保険等の法案を、昨年秋の臨時国会への提案を見送った。結局フリーランスの働き方が幅広く、特定するのが困難なためとされている。同時に一人社長として働く人と労働者として働く人を区別すべきとの意見等もあり提出されなかった理由のようである。

 時間があるときに自由な働き方をするためにフリーランスとなっている人が多い。そのため企業との雇用契約はなく社会保険等には加入せずに無保険状態となっている。

 フリーランスを使用する事業主も雇用契約がないことから社会保険料等の負担義務がなく、経営的にも支出が少なくて済むというメリットがある。

 雇用保険に加入すれば雇用継続給付金や育児休業給付金を受給することができる。しかしフリーランスとして働いていた場合、雇用保険には加入していないために、これらを受給できない。

 働けない時の生活をカバーするのが社会保険の目的であるが、加入の前提は労働者であることとなっている。

 従って問題になるのがフリーランスの労働者性である。

 これまでも「ウーバーイーツ」配達員や楽器メーカーのヤマハの子会社系列である「ヤマハ英語教室」の講師が労働組合を結成している。

 「ウーバーイーツ」労働組合は事故に対する補償や賃金体系の説明を求めて会社に団交を申し入れていた。しかし会社は労組法上の労働者ではないと拒否をしたため、組合が東京都労働委員会(東労委)に救済を求めた。

 その東労委が昨年11月25日、ウーバーイーツの配達員を労働組合法上の「労働者」として認める判断を下している。東労委がウーバーイーツの配達員を労働法上の労働者として認定したのは日本で初めてのケースである。

 フリーランスへの法整備を

 働き方の多様化が進む一方、雇用労働者でもなく個人授業主でもないフリーランスのような働き方が増加している。

 雇用契約によって使用した場合は一定の条件の下では社会保険加入の義務がある。しかし、雇用契約のないフリーランスは社会保険への加入もなく、必要なときだけ使用できることから事業主にとっては使いやすい存在である。

 同じようにインターネット経由で仕事を請け負うギグワーカーも増えているという。「ウーバーイーツ」の業務実態もギグワーカーに近く労働条件は厳しいようである。

 こうしたフリーランスの相談窓口として東京第2弁護士会は、厚生労働省から委託を受け、厚生労働省のほか、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁と連携して「フリーランス・トラブル110番」と題して、無料の弁護士による電話・メール・面談相談(ウェブ面談も含む)及び紛争解決の和解あっせん事業を2020年11月25日から開始した。この相談窓口には毎月600件ほどの相談が寄せられているという。

 自由な働き方は魅力的だがその内容は思ったより厳しいというのが実態といえる。経営者とはいえ労働者性の高いフリーランスにも社会保険等を適用するようにすべきである。

 ただし、フリーランスの所得は一定しないのが大多数であり、保険料の算定が難しいため現行の制度では不可能である。フリーランスに仕事を依頼した時点で社会保険等の保険料が発生し、保険料はそれぞれが負担して事業主が納付するような新たな制度が必要である。こうした法律は簡単ではないが社会保険の無加入者をなくすために、早急な検討が求められる。


 ◆ 石山浩一 特定社会保険労務士。ライフビジョン学会顧問。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/