月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

道具はあれば使いたく・・・

音無祐作

 昨年、電気工事士の資格を取得した。試験には実技がある。普段仕事で扱っているプロならば、ケーブルの被覆を剥がす作業は現場での利便性から電工ナイフという工具一つで迅速に行ってしまうらしいが、私は完全な素人で、しかもあまり器用な方ではない。

 そんな人間用にケーブルストリッパという便利な工具がある。プロにとっては「邪道」らしいが、私にとっては非常に有用で、今回もこれを使ったおかげで時間内に作業が完了できたと思っている。さらに欲を言えば、普段の工作でちょっとしたネジを回すにも電動ドライバーを使っているものぐさとしては、たいしてネジなど回さない実技試験でも電動を使いたかったのだが、これは禁止されていた。

 軍事的道具の一つに航空母艦(=空母)というものがある。大きなものでは搭載人員5,000名、艦載機90機に及ぶようなものまであり、空軍基地ひとつはおろか、ちょっとした国の軍事力をも1隻で凌駕する存在である。冷戦終結以降、ロシアでは必要性の低下からその数は減少しているが、アジア地域では、新たな保有、増強の流れが進行している。

 第一次大戦以降、空母は対外軍事力の要であり続けたが、その流れを作ったのは日本であった。現代日本には空母はない、ことになっているがヘリコプター搭載護衛艦という、外観上は非常に空母に似た艦船を3隻保有している。専門家によると、これはあくまで護衛艦であり、航空機が離着陸できないので、定義上「空母」とは言えないのだそうだが、某模型メーカーのこの艦のパッケージには、離陸する戦闘機が描かれていた。かつて、この国を「不沈空母」と呼び、大変な批判をかった首相がいたが、さすがのその首相でも日本が空母を保有することなど、たとえ内心望んでいても口にはできなかったことだろう。

 ところが、ここへきて、護衛艦「いずも」を空母に改修しようとする動きがある。あくまで、離島「防衛」の際に、米軍機の補給・支援をする目的であり、攻撃型の空母ではないという主張らしい。

 しかし言葉巧みにはぐらかし、なし崩し的に物事を思い通り進めるのは、現政権党の得意とするところである。最初は「米軍用」だとしても、いずれ日本が短距離離陸の可能なF-35Bなどを揃えれば、小型の空母として運用することが可能となる。

 道具というのは、あれば使いたくなるものである。電気工事のプロがケーブルストリッパを使わないのは、持ち運びが重くてかさばるし、慣れれば電工ナイフで十分だからということらしいが、もし目の前に置いてあったなら、思わず使ってしまうのではないかと思う。

 「防衛」だから大丈夫という意見もあるが、どの国の軍隊も名目上は「防衛」を唱えている。あの強国ですら「国防総省」と銘打っているし、かの戦争も、きっかけは「防衛」として始まっている。

 日本の憲法は、ただ単に武器を持たないことを宣言しているわけではなく、「紛争に頼らず、良い関係を築ける国になろう」という理念のもとに成り立っていると思っている。近隣諸国に地政学上の不安を感じたならば、関係諸国の架け橋となることが日本の政治の目指すべきところではないだろうか。

 かわぐちかいじ氏の空想物語で、「空母いぶき」という作品がある。新たな道具が、地政学上のトラブルの「いぶき」とならぬよう、願いたい。