論 考

政治倫理審査会は弁明の場なの?

筆者 高井潔司(たかい・きよし)

 テレビやラジオでニュースを聞くと、当然ながら聞き逃してしまう部分がある。しかし、何度も聞かされると、「えっ、そうなの?」とひっかかるところも出てくる。NHKの政治倫理審査会をめぐる報道がそうだ。

 NHKは最近、このニュースを取り上げる時、こんな枕詞を連発するようになった。「議員みずから申し出て弁明を行う、政治倫理審査会は……」。そうか、審査会は弁明の場なんだ。

 衆議院の審査会に出席した岸田首相をはじめ自民党の幹部は、政治資金をめぐる裏金疑惑について、「知らぬ、存ぜぬ」を連発した。私も前回の本欄で彼らを批判する評論を掲載した。それは審査会が事件の真相を究明する場であることを前提にした議論だった。

 NHKが言うように、「議員みずから申し出て行う弁明の場」なら、「知らぬ、存ぜぬ」もむしろ当然のことで、自民党安倍派・二階派幹部を批判するのも少々的外れという気がしてくる。何の追及材料もなく審査会の開催の要求をする野党を批判したことは、誠に申し訳ない。

 もっとも、そうだとすると、そんな弁明の場にさえ出てこない二階俊博元幹事長や萩生田光一元政調会長はこの事件で、弁明さえできないよほどの悪事をはたらいていたかと、また疑惑を深めてしまう。

 ところで、他のマスコミもNHK同様、弁明の場として捉えていたのだろうか。新聞を調べてみると、朝日は「自民党の裏金事件を受けた政治倫理審査会」とあり、毎日も「自民党派閥の政治資金パーティ裏金事件をめぐり、政治倫理審査会は……」とある。読売は裏金事件とまでいわないまでも、「自民党派閥の政治資金規正法違反事件を受けた政治倫理審査会」とあり、三紙とも事件を受けてその真相を明らかにする会と位置づけて報道している。

 朝日新聞デジタルの「そもそも解説」をみると、その目的は、「疑惑(ぎわく)が取りざたされた国会議員への審査を行うためだ。規程では、議員が『政治的道義的に責任がある』かどうか審査すると定めている。

 検察の捜査(そうさ)で立件されなかった場合でも、政倫審の審査の対象にすることはある」とあるから、決して弁明の場という位置づけではない。

 だから前回書いたように、各紙とも何も真相が明らかにならなかったと批判したのだ。とすると、NHKの枕言葉がおかしいことになる。

 実はNHKもネットで検索してみると、当初は新聞各紙に比べと批判のトーンは弱いものの「自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題を受けて……」と報じていた。衆院の審査会の終了以降、「議員みずから申し出て弁明を行う」というフレーズが目立つようになった。これはどう見ても、どこかからの圧力、あるいは忖度の臭いがしてくる。

 政治倫理審査会の最中、自民党女性議員の不倫騒ぎに続いて、今度は自民党若手議員のヌードダンサーパーティ問題が発覚した。まるで緊張感の感じられない日本の政治。「もしトラ」が「ほぼトラ」になろうとしている今、こんな体たらくの政治で、「適切に対応」ができるのだろうか?