論 考

ネガティブキャンペーンを超えて

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 国内ネタは、どうも面白みに欠けるので、本日もアメリカ大統領選挙に関して少し書く。こちらは面白いというわけではないが、世界中に危うさをばらまいてくれそうな予感がする。そうあってほしくない。

 もはや大統領選挙は終盤戦の様相だ。バイデン対トランプの構図で固まっている。その点、まったく面白くない。

 これから始まるのは、ネガティブキャンペーンだろう。なにしろ、トランプ氏はその道の達人である。もしも、彼がまともに話し始めたら、おそらく大部分の支持者が離反してしまうだろう。(アメリカ社会は、まともでない奴がまともに見えるような事情にあるともいえる。)

 バイデン氏は、トランプ氏に批判されるようにエリート層であるから、あんたとは違うというポーズを取りたいだろうが、挑発され、煽られるのだから、おすましだけでは済みそうもない。

 それが11月まで半年も続く。朝日新聞は「トランプ氏指名 論戦なき独走の危うさ」(本日)という社説を掲げた。いままでは、共和党内部の話だが、これからは、国を挙げての論戦なき、いや仁義なきネガティブキャンペーンに突入し、それが11月まで延々続くのだから、アメリカ社会の分断に拍車がかかる。

 バイデン氏は、トランプ氏が暴走また暴走することを期待しているはずだ。それが、反トランプ票を固め増やし、無党派層を引き付けられるという理屈になるからだ。

 その際の問題は、バイデン氏の年齢に対する懸念で、これは言葉で変質させられるようなものではない。バイデン陣営はいかなる秘策を持っているだろうか。いちばん好都合なのは、トランプ氏も高齢なのだから、それが前面に出てくることだ。

 大物候補者2人が、雁首揃えて年齢問題でNOとなれば、若い候補者が登場する大展開になるかもしれない。本当は、とっくに世代交代が起こっていても不思議ではないのだが、そうならないところにアメリカの悩みがある。

 そこで、どんな人物が副大統領候補になるかが、決め手になる可能性がある。副大統領は、大統領がアウトになれば直ちに後を引き継ぐからだ。

 現職副大統領のカマラ・ハリス氏は、おおいに期待されて登場したが、この間、あまり存在感がない。

 もちろん、副大統領が目立ちすぎるのはよろしくない。しかし、いわばいざというときのアンカーであるから、いつでも頼りになる存在として控えていなければならない。

 バイデン氏の年齢問題は最初から指摘されていた。だから、ハリス氏は後継者としてもっとも近い位置にいるはずである。周囲に、ハリス氏を育てようという動きがあっても不思議ではないし、ハリス氏にすれば、ひそやかな自負とともに育とうとしたはずである。

 バイデン氏が、まだまだ若いもんには譲れないぞ、と決意しているのかどうかは知らない。そうであるから、ハリス氏にスポットが当たりにくかったのだろうか。これはよくわからない。

 彼女の母親も活動家であり、「あなたは多くのことを成し遂げる最初の人になるかもしれない。でも、決して最後の人になってはならない」と語ったそうだ。しかし目下は、肩透かしの感である。

 トランプ氏の副大統領候補もおおいに大事である。彼は、大詰めでペンス副大統領に離反された。離反はトランプ氏を基準とした場合の表現であって、わたしらの常識ではペンス氏は立派な判断と行動を選んだ。

 トランプ氏はその性格と体験からして、副大統領候補にアンカーの位置を期待するなんてことはなかろう。お山の大将俺一人である。

 ネガティブキャンペーンが予想されるが、副大統領候補の存在が、案外大きな決め手になるのではなかろうか。