論 考

ヘイリー氏の突っ張り

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 トランプ氏が共和党の予備選挙を制するのは、だいたい事前に予想されていたが、ヘイリー氏は頑張って敗色濃くても撤退しない。

 ヘイリー氏の狙いがわかってきた。ヘイリー氏は「バイデン氏に勝てるのは自分であって、トランプ氏では勝てない」と演説している。どうも、真の狙いはトランプ当選を阻止することにあるようだ。

 トランプ大統領のもとで国連大使を務めたヘイリー氏は、トランプ氏が米国政治に有害だという確信を深め、自分がその仕事をやろうとしている。だから、予備選挙を通じて、反トランプ票を掘り起こそうとしている。

 トランプ氏は共和党の健全な民主主義意識を大きく棄損させた。要するに右翼、超右翼が共和党を乗っ取った。これは、共和党だけの問題ではない。アメリカン・デモクラシーの大きな蹉跌である。もし、再度トランプ氏を大統領にすれば傷口はどんどん拡大してしまう。

 共和党内部で、トランプ氏の政治的資質について堂々と正面攻撃を開始したのは、ヘイリー氏のデモクラットとしての危機感が半端ではないからだろう。

 予備選挙をトランプ氏が制しても、本選挙で勝たせなければよい。共和党内の反トランプ票を掘り起こせば、それがトランプ氏から離れて、バイデン氏の劣勢を挽回するチャンスがある。

 すでに大スポンサーがヘイリー氏から離れているが、ヘイリー氏が狙っている本当の勝利のために、戦いの効果を高めるようとして突っ張る。

 もちろん、ヘイリー氏は共和党だから、支持者は、敗北すればトランプ支持を打ち出すのが筋だと思っているかもしれない。

 撤退するとき(あるいはしかるべき時期を選んで)、ヘイリー氏がトランプ不支持をぶち上げて、反トランプ意識を盛り上げ、票がバイデン氏に流れていけば、トランプ氏優位といっても圧倒的ではないから、バイデン氏勝利を導くことが可能である。

 わたしの分析が妥当であれば、大変面白い。今後の展開が興味深い。

 ついでに、わが国内の幼稚な民主主義に付言すれば、自民党の中から、目下の自民党の堕落ぶりを批判する有志が出ない。

 朝日新聞によると、自民党若手議員が、「このままでは国民に、カネに汚い自民党と言われる」と悲鳴を上げているそうだが、このままではどころか、自民党がおカネによって堕落していることを知らない国民は、きわめて珍しいケースだろう。

 ヘイリー氏の後に続けと言っても仕方がないが、あえて言う。自民党議員諸君、堂々と正論の声を上げなさいよ。