論 考

思い出すモンゴル

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 モンゴルで今年、ソド(寒雪害)で、家畜210万頭が死亡した。全体の家畜数は6,470万頭である。ソドはこの10年に6回発生しているそうだ。

 20年前モンゴル砂漠へ植樹に行った。ある組合のボランティアに便乗させてもらった。

 首都ウランバートルに人口の6割が集中している。鉄道でウランバートルを出て1時間もしたか、周辺はすべてに砂漠地帯である。道路があるのかないのかという感じの広大な砂漠地帯をたまに車が走っていた。

 線路だけ存在するような砂漠地帯を5時間ばかり走って、到着した都市で一泊して、いよいよ砂漠へ出かけた。

 砂漠の中のゲルまで、車で2時間くらいかけてゲルに到着、そこを基地として車で1時間くらい走ったところが植樹地域。

 硬い地面に植樹用の穴を掘るために小型のショベルカーが用意してあって、水は、タンク車で運んでくる。ショベルカーが掘った穴をさらに人力で掘って、植樹する。とにかくすべて人力であった。

 ゲル生活は、なかなか快適であった。ただし、テントの中は砂だらけだ。ウサギみたいな愛嬌のあるネズミが現れたり、地面をツタのような草が生えているが、まあ、頼りないものである。

 地面に草が全面的に生えているオアシスの宿舎にも一泊して、遊牧の人のゲルを訪問させてもらった。そのときは、それなりに快適そうな生活に見えたが、ソドなんてことになったら、小さなテントを出て、馬を走らせるわけにもいくまい。2日くらい馬を走らせるのはなんでもないそうで、驚いた。

 家畜が多く死んだのは、餌を買いに出かけられなかったからだ。実際、遊牧の人々の生活は決して余裕のあるものではなく、厳しさを強く感じた。

 われわれが出かけたのは快適な季節であった。いま、ぬくぬくしつつ、降雪と寒気を想像するだけでも、やわな自分にはとてもかなわない。

 植樹作業自体は結構きつかったが、全体を見れば半分は観光みたいなものだから、のんきに過ごしたのであって、厳しい冬に思いが及ばなかった。

 最近は、さらに快適なゲル観光が流行っているみたいだが、もし、モンゴルに旅する機会を得たならば、非人情な砂漠と、過酷な気候条件について、最大限想像力を駆使したいものだ。

 政治倫理審査会などで大騒ぎする日本は、まったく、ひょっこりひょうたん島そのものだ。とてもじゃないが、世界をリードする日本などと大言壮語するのは恥ずかしい。

 こんな話の展開になるのが情けないが、仕方がない。