論 考

嘘を言うべきではない

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 嘘を言っても許されるのは、小説家と釣り師だ。

 釣り師が「こんなに大きいのを逃がした」と嘘を言っても怒る人はいない。大小に関わらず、精魂込めた釣り竿からお目当てに逃げられた口惜しさは誰もがわかる。

 小説家は嘘を書く。小説は絵空事である。表現する出来事のおおかたは嘘だが、物語全体が生み出す世界をこそ、小説家は提供するのである。読者を、独特の世界へ誘うことによって小説家は評価を獲得する。

 政治家が嘘を言うことは根本的に許されない。嘘や幻想で世間を騒がせるのは政治ではなく、扇動である。

 まあ、わが国の政治家で、プーチン流やトランプ流が上等だ。わたしも習って、大政治家をめざしますと語る政治家が見当たらないのは結構だが、スケールの小さい所? でせせこましく展開される嘘は決して少なくない。

 「派閥を止めて本来の政策集団に」するというのなどは、堂々たる嘘である。しかも、いままでの所業を改めるという前提だから、なお、始末がわるい。

 自民党の結党以来を振り返って、「本来の政策集団」なんてものは、皆無である。つねに「派閥はその本来の目的たる」権力奪取に向けて大活躍してきた。

 この期に及んでも、まったく反省の色がないという性根だけは、よくわかったのではあるまいか。