筆者 おかぼん
欧米でストライキの波が止まらない。労働損失日数が、英国で33年ぶり、米国で23年ぶりの規模に達したという。
その直接の要因は何と言ってもインフレであるが、その背景にAI(人工知能)やEV(電気自動車)といった新技術が背景にあるようだ。不可逆的に進むイノベーションの雇用へのインパクトと捉えることができる。
これら新技術は、長い目で見れば仕事を奪うより生み出す効果が勝ると思うし、事実として企業調査結果でもそのように公表されている。しかし、短期的に見れば現在の労働者のスキルとニーズのギャップもまた大なるものがある。
私が子どものころ、都市から路面電車が次々と消えていった。運転手として働いていた労働者は大型の運転免許を取得してバスの運転手に転向していった。これらは比較的短期間にうまく転換できた好例である。
しかし、AIやEVといった新技術の登場は、そろばんで計算していた労働者に電卓ではなく、いきなりパソコンを操作させる程度のスキルチェンジを要求する。しかも、すでに私たち自身経験しているように、このパソコンスキルは一度取得しても研鑽を怠ると日進月歩の進化に取り残されてしまう。
すべての労働者がこれらに順応できるとは限らないであろう。そこで欧米ではストライキが増えているのであるとすれば、環境は日本も欧米と大差はないはずである。なのに、なぜ日本ではストライキが起こらないのであろうか。
とても労働環境が恵まれているとは思えないし、経営者もこれら新技術の登場に対応するためにリスキリングに力を入れているとも思えない。そこで、試しにAIへ日本のストライキが少ない要因を聞いてみると、その一つに非正規雇用労働者の増加を挙げてきた。
非正規雇用の労働者は安定した雇用を求めてストライキを行うことが難しく、非正規雇用の増加が労働組合の力を弱める要因となっているという。たしかに組合員の非正規労働者は少ないし、圧倒的多数の中小企業に働く人々のおおかたは組合を組織していない。
それだけではない。正規社員たる組合員が組合活動に強い関心を持っていない。組合があっても、組合運動(組合員の多数が参加する)が育っていないのが最大の弱点である。組合がストライキを打つためには、よほど日ごろから組織活動にみを入れていなければならない。
ストライキを打っても要求が貫徹できるとは限らない。いや、歴史的には大闘争をやっても勝てなかった場合のほうがはるかに多い。
このまま手をこまねいていれば次は非正規雇用から委託契約に切り替える流れが加速しかねない。こうなるともうストライキどころか労働法で労働者を守ることさえ困難になってくる。
労働法が労働者を守ってくれるのではない。経営者に労働法を守らせるのが労働者・労働組合なのである。
労働組合が、実力を蓄えなければ、政治家の票集め賃上げ論が幅を利かせるだけである。本気で官製春闘などが有効だと考えているようでは、とても欧米なみの労働攻勢をかけられない。