月刊ライフビジョン | 地域を生きる

「市民協働」の図書館とは何か

薗田碩哉

 わが町、町田市鶴川の団地の商店街の一角にある可愛らしい図書館が、市の公共施設再編計画(という名の公共施設ぶっ潰し計画)に従って廃止されるという方針に対して、地域の心ある人たちが図書館存続を求めて運動を起こしてすでに3年。反対署名を集めて議会に請願したり、講演会やシンポジウムを開いて問題提起したり、「鶴川図書館祭り」というイベントを興して多くの市民に図書館の存在価値を訴えたり、最後は「元凶」の市長を替えるべく、対立候補を応援して戦ったもののあえなく敗北—市長と市は着々と計画の実施に突き進んでいる。

 それでも、選挙戦を前にして市が少しばかり計画の手直しを言い出したのは、市民運動の成果といってもいいだろう。現状の公立図書館は廃止するが「図書館代替施設」を残すという妥協案だ。今のままでは済まないが、何か図書館みたいなものを残してあげましょう、それで納得しなさいと言うのである。しかし、問題は「代替」の中身である。どうやら市の思惑は、南町田の図書館のない地域に図書館代わりとして設置を支援した「まちライブラリー」のような施設を作るつもりのようだった。これは商業施設の一角に一部屋確保して書棚とテーブルと椅子を並べ、誰もが「気楽に」やって来て本を読んだり、お茶を飲んだりできるサロンなのだが、そこに並んでいる本は市民有志が適当に持ち寄ったもので、図書館の体系的な蔵書とは似ても似つかぬ雑書の寄せ集めなのだ。図書館愛好者に言わせれば、そんなのはちょっと気の利いた喫茶店ならどこでもやっていることで「図書館もどき」にもならないマヤカシに過ぎないということになる。

 そこでまた、市民と図書館当局との話し合いや官製ワークショップの開催などいろいろ攻防があり、その結果、市が打ち出してきたのは「コミュニティ機能を備えた市民協働型図書館」という新コンセプトである。市民が図書館の運営に参画することで人件費を削減し、合わせて市民と図書館の関りを深化させてコミュニティづくりに役立てようという構想で、これに一定の予算を付けるというのである。この文言だけを聴くと、市民の創意を生かした結構なプランに見えないこともない。とは言え、その場合の「図書館」というのは、「まちライブラリー」的な、似非図書館なのか、現在のような整理された蔵書を維持し、市の図書館ネットワークにもつながる「ホンモノの」図書館なのか、それは依然として不明確のままなのである。市民運動側としては、公立図書館の最低条件が守られるなら、専任職員を減らして非常勤職員に置き換えたり、日常の業務の一部を市民団体が肩代わりしたりすることも検討する用意はある。

 市民協働型運営の具体化のために市が取った行動は、またしても「コンサルタント」への委託である。「市民協働型図書館をどのように作ったらいいでしょうか」というプランを、当の市民を飛び越えてコンサルタント会社へ、相当の予算を付けて丸投げしてしまった。選ばれたコンサルタント会社は、コミュニティづくりではちょっと知られたプランナーのようだが、図書館運営については何の実績も無いような会社である。市民の中には、図書館実務の経験者もいれば、地域の文庫活動とか、読書会活動などを進めている団体もいくつもある。市民協働というのはこうした市民団体と市行政とがまずは自由で対等な意見交換をするところから始まるはずなのに、「何でもコンサル」という市のやり口は、市民自治への無理解、というより自治そのものの否定につながっていると言わざるを得ない。

 とはいうものの、コンサルタント会社と言えども、当事者である市民の意向も聞かずに勝手にプランを作るわけにはいかない。図書館を利用する市民の声を集め、生涯学習に関わる市民団体とのやりとりを積み上げなければ「市民協働型図書館運営計画」を描けるはずがない。市民側としては、コンサルタントが声をかけてくるのをいまかいまかと待ち構えている状況だ。市民の図書館に関するさまざまなデータや課題も集めてあるし、近隣の街で行われている参考になる運営事例も調査してある。市とコンサルと市民団体の3つ巴のやり取りをどう進めるのか、正念場はこれからだ。


【地域のスナップ】鶴川図書館祭りでの「チェロと読み聞かせ」

 市民の図書館への関心を高めてもらうことを狙いに「図書館祭り」を始めて3回目。わが「さんさんくらぶ」はチェロの演奏と組み合わせたお話し会を、図書館前のアーケードの下で開き、たくさんの親子が聴いてくれた。後ろの窓の向こう側に図書館の書棚が見える。(2021年11月)


◆ 薗田碩哉(そのだ せきや)

 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。