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自動車産業のジレンマ

音無祐作

 アメリカ等と較べ消費者物価は緩やかな伸びにとどまる日本ですが、近頃、価格が急騰している商品があります。スポーツカーを中心とした、ちょっと旧い自動車、いわゆる旧車やネオクラシックカーと呼ばれる車です。

 例えば、90年頃に400万円台で発売された第2世代のスカイラインGT-Rは現在では1000万円を超え、程度のよい限定モデルなどは5000万円を超えることも珍しくありません。それどころか、80年代には大衆車だったサニーやスターレットといった車も、今では貴重となった後輪駆動車の場合は、数百万円のプライスタグが付けられている例もあります。そんな価値のある旧車だけではなく、旧い車のオーナーの中にはある年の5月に届いた自動車税の納付書を見て、その急騰にびっくりした方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 日本では、ガソリン車とLPガス車の場合は、新車登録から13年を超えたモデルには15%増、ディーゼル車の場合は、新車登録から11年超で15%増になります。排気量1.5リットル超2リットル以下なら、39,600円から45,500円へと、5,940円上がることになります。

 更に車検時に納める自動車重量税も、13年経過で約40%増、更に18年経過で13年経過より約10%増(当初からおよそ54%増)になってしまいます。一般的に、旧い車はCO2の排出量が高いということで、そこへの「罰金」的な位置づけのようですが、新車への買い替えを促進する制度のように思えて仕方ありません。

 これに対し、多くの旧車オーナーや一部の自動車関連の団体は、「1台の車を長く使うことも、エコ」として反発をしていますが、政府の試算には、新車製造時の1台当たりおよそ4~5トンという二酸化炭素排出も計算に入れたうえで、先述の経過年数を設定しているとの事です。私自身も「罰金」の対象となる古い車を所有しているだけに、複雑な気分です。

 ある小説の中で、「日本随一のカーメーカーが、その気になれば設備投資や社内への還元などで、減らすことも可能なのに、兆円単位の利益を出すのは、何のためか…。それは、政治献金としての意味を持つ」というようなくだりがありました。たしかに、2兆円の利益ともなれば、外国子会社からの受取配当など課税を免れる部分を考慮しても、一千億円以上の税金を納めることとなり、政府にとっては、とても大切な存在と言えることでしょう。

 日本ではあまりロビー活動は活発ではありませんが、代わりに忖度という文化があります。ましてや、自動車産業がそのグループ・関連企業合わせて500万人以上の雇用を担っているということも考えると、現時点の日本経済を守るために、政治が自動車産業を大事にすることは、仕方がないのかもしれません。

 今後、たとえば内燃機関の要らない電気自動車に移行できれば、走行中の二酸化炭素排出は抑えられるかもしれませんが、発電時や、ガソリン自動車の1.3倍から2倍と言われる製造時の二酸化炭素排出は、現時点の技術・環境では不可避です。

 それを考えると将来的には、自動車の走行台数自体を減少させる必要性もおおいにあるでしょう。車好きとしては寂しい限りですが、地球環境を真剣に考えるならば、そろそろ本気で取り組まなければいけないのかもしれません。例えば、まずは先進国の都市中心部だけでも、最低限の物流以外、自動車の要らない仕組みづくりを考え、規制をするなどの取り組みも必要になってくるのではないでしょうか。

 そうした環境が整えば走行時の危険性や飲酒運転の増加など、スタート早々何かと問題視されている立ち乗りの電動モビリティーなども、今よりは安全に活用できるかもしれません。

 それにしても自動車産業に代わる日本経済の柱を担えるビジネスって、何があるのでしょう…。