月刊ライフビジョン | 社労士の目から

ジョブ型賃金と産別組織

石山浩一

 22年春闘は連合が第1回集計で定期昇給と純ベアの合計が2.14%と発表し、終盤を迎えている。今年の賃上げでの連合の要求方針は、例年並みの定昇相当分2%にベースアップ分2%の計4%となっている。こうした要求に対して経営側は、各企業の実情に適した賃金とする「賃上げ決定の大原則」を掲げて交渉に臨んでいる。これは産別組織等の統一要求に対して、横並びの回答ではなく各企業の支払い能力に応じた回答とすることである。

 春の賃上げ時期になると各界から多くの意見が飛び出してくる。今回はジョブ型賃金制度を経団連が推進することに対して、関西経済同友会は新卒一括採用や終身雇用制度等は「技術の安定的な伝承や、企業に対する愛着を強める利点がある」と評価しジョブ型賃金に一石を投じている。

 1、ジョブ型賃金制度

 1890年代の工場生産には多能的な熟練労働者が必要とされ、生産システムは熟練した親方による「徒弟制度」によって技術や人間関係がコントロールされていた。しかしフォードはテーラーシステムを採用、これまでの生産工程を職務ごとに分析し、それぞれの労働者は与えられた職務を就業時間内で繰り返すことになった。動いてくるコンベアー上にある車に、労働者は与えられた部品を取り付けるという単純作業によって大量生産を可能とすることになった。こうした生産方式は労働者の怠業を防ぎ、時間・動作研究によってタスクの標準時間と基礎賃率を設定して作業管理を行うことが可能となっている。しかし、こうした人的管理は人間性を阻害するものとして労働組合の反発は強かった。

 フォードイズムは、大量生産(科学的管理法)、大量販売(自動車ローン)であり、従業員の協力と政府のサポートを求める社会の仕組みでもある。こうしたことから生産性向上による利益は、消費者、企業、労働者に分配することでそれぞれの協力を得たのである。

 分業された職務による生産システムであるが、個人の作能率向上が団体としての生産向上にもつながっていった。

 2、関西経済同友会の提言

 これまでの経済発展や雇用の安定を支えてきた終身雇用と年功序列賃金が従業員の意識の多様化対応できずにいる。これまでの従業員の企業への愛着心を生かして発展するためにジョブ型の賃金や雇用慣行の見直しが必要である。これからは「従業員が企業のビジョンに共感、腹落ちし、自発的・能動的に力を発揮する意欲」を意味する「従業員エンゲージメント」(経営ビジョンの自分事化、高い当事者意識)の向上、及びそれを持続させる

「サステナブル・エンゲージメント」(持続的な深い関係性)が重要となっている。

 この提言の趣旨は、これまでの日本の経済発展を支えてきた「企業別労働組合」「終身雇用」「年功序列賃金」を評価しつつ、従業員の価値観が多様化していることから、低生産性やぶら下がり社員等の欠点を克服する必要があると思われる。

 3、ジョブ型賃金制度は浸透するのか

 パーソル総合研究所の調査では従業員300人以上の企業でのジョブ型賃金制度の導入率は18.0%で、検討しているが39.6%であり広がる可能性がある。

 しかし、ジョブ型賃金の基本は産別労組が基本とする賃金制度であり、主に先進工業国の産別労働組合の組合員に適用されている。日本では海員組合や全日本港湾労働組合などがあり、単一労働組合として活動している。

ジョブ型賃金を提唱している経営者はどのような労使関係を前提としているのか不明だが、企業別組合で年功上列賃金の企業になじむのか疑問である。


◆ 石山浩一  特定社会保険労務士。ライフビジョン学会顧問。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/