月刊ライフビジョン | 社労士の目から

同一労働同一賃金と日本郵便事件 

石山浩一

 平成28年(2016年)12月に同一労働同一賃金ガイドライン案が公表されて、5年が経過しようとしている。正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保して、雇用形態による不合理な待遇格差の解消の実現を目指したのである。このガイドラインは、正規雇用と非正規雇用との間に存在する待遇差が、不合理なものか否かを示している。

 こうしたことを背景に、東京都と大阪府に佐賀県の郵便局に勤務する非正規の人たちが労働条件の改善を求めて提訴を行った。同一労働同一賃金に対する初めての最高裁の主な判決は下記の通りである。               

1、事件の概要

(1)東京郵便事件

 6ヶ月の有期雇用契約を更新している時給制のXらが無期契約の正社員と同一内容の業務に従事しているが、正社員との間に年末年始勤務手当、病気休暇、夏期冬期休暇手当等の労働条件に格差がある。私傷病休暇では正社員に90日の有給休暇が付与されるが、時給契約社員には無給で10日間である。こうした相違があるのは労働契約法20条に違反しているとし、手当等の差額や損害賠償を求めた。

(2)大阪郵便事件

 郵便物の集配、荷物の集荷等に従事している時給契約又は月給契約社員Xら8名が、正社員との年末年始勤務手当、祝日給、扶養手当、夏期冬期休暇等に相違があること。 

 扶養手当は正社員のみ扶養親族1人につき月額1,550円から15,800円支給されていることは不合理であるとして手当の差額等を求めた。

2,最高裁の趣旨

(1)東京郵便事件

 Y社の上告棄却。Xらの上告につき一部破棄差戻し。

 病気休暇を与えることは経営判断として尊重できるが、契約更新を繰返し継続的な勤務が見込まれる時給契約社員への病気休暇の日数の違いはともかく、有給か否かの相違は不合理である。

(2)大阪郵便事件

 Y社の上告棄却。Xらの上告につき一部破棄差戻し。

 扶養手当の支給は継続的な勤務が期待される正社員への福利厚生として尊重し得る。しかし、その目的は相応に扶養があり、継続的な勤務が見込まれる時給制契約社員にも支給することした趣旨を妥当とする。職務の内容、配置の変更範囲、その他の事情に相応の相違があることを考慮しても扶養手当に係る労働条件の相違は不合理である。

3、個別判断

(1)年末年始勤務手当

 年末年始勤務手当は、12月29日から1月3日までの間の勤務に対して支給される特殊勤務手当の一つである。業務の内容・難度等にかかわらず、上記の期間に実際に勤務したこと自体を支給要件としており、支給金額も、実際に勤務した時期・時間に応じ一律であるから、手当の支給趣旨は時給契約社員にも該当するとし、不支給は不合理と評価できる。

(2)冬期夏期休暇

 冬期夏期休暇の目的は労働から離れて心身の回復を図るものとされており、取得の可否や取得日数は正社員の勤続年数の長さと連動して定まるとは規定されていない。正社員と同じ郵便業務を担当する時給契約社員には労契法20条で規定する業務に大きな相違はなく、冬期夏期休暇に相違があることは不合理と評価できる。

(3)病気休暇

 正社員には私傷病により勤務できなくなった場合に有給の病気休暇が与えられている。同じ郵便の業務を担当する時給契約社員については、契約期間が6ヶ月以内となっているが、契約更新が繰り返されて継続勤務が見込まれている。こうした時給契約社員に対して与える病気休暇が無給扱いは労契法20条の不合理と認められる。

4、所感 

 同一労働同一賃金の判断は、ハマキョウレックス裁判同様に手当ごとに判断を行っている。手当には職務に関連する手当と生活に関連する手当があり、東京・大阪両地裁は基本的には職務に関する手当の不支給に不合理性はないとしているが、生活関連手当の不支給については不合理と判断している。なお、大阪高裁は、5年以上の勤務者は長期継続勤務とみなし、祝日給などの5項目の不支給は不合理としている。短期の契約期間を更新することによって長期勤務となり、無期契約の正社員と同様な労働条件にすべきとの判断が窺える。

 夏期・年末手当(賞与)について、大坂医科薬科大学事件では賞与の支給判断が不合理と認められることはあり得るとしている。その支給基準は、査定期間における労務対価の後払い、功労報償、将来への期待等の趣旨を含み、正社員の人材活用を目的とした配置の変更などが行われている。こうしたその他の事情によって時給契約社員と正社員とに賞与に相違があることは不合理と判断されていなかったようである。

 しかし、「同一労働同一賃金ガイドライン」では、賞与について、会社の業績等への貢献に応じて支給する場合は有期契約労働者にも貢献に比例して支給しなければならない、としている。賞与の扱いについては、就業規則に基づいて慎重に扱うべきである。

 なお、労働契約法第20条は令和2年(2020年)4月に短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート・有期雇用労働法)に細分化して移行されたため削除されている。

<参考>※ハマキョウレックス事件最高裁判決は2018年6月1日。


石山浩一 特定社会保険労務士。20年間に及ぶ労働組合専従役員の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/