月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

もの言う国民になろう

音無祐作

 とある企業の株主総会に参加したときのことです。おそらく自社の管理職や営業マンではと思われる方々が議場のそこかしこに陣取り、議長が会社概況などを一通り説明した後の、「何かご質問はございませんか」の声に即応して、「異議なし」と大合唱。ちょっとやそっとの疑問があったとしても、圧倒されて委縮してしまいそうでした。

 先日、某企業の株主総会で、株主による提案が可決されたと話題になりました。以前は、よほどの不祥事や大きな失策でもない限り、株主提案はもちろん、質問や意見というのもそれほど出されなかったそうですが、ここ近年は、環境対応や社会貢献などに関して、株主からの発言が増えてきているそうです。

 あれこれ注文を付ける株主を「もの言う株主」「アクティビスト」などと警戒する向きがありますが、短期的な利益しか見ずに、会社の切り売りや、有益な資産の売却などばかり言うような相手だけならともかく、意見や質問は聞く気はありません、お金は預かりますが、黙って我々に任せてくださいというような株主総会は、少し虫が良すぎるような気がします。そんな経営者の方々は、社外取締役の忠告や進言にすら耳を傾けるとは思えません。

 少し前に某政治家が、「女性委員は、目立とうと思って発言するから、会議が長くなる」との発言をして女性蔑視が問題視されましたが、「会議で発言して何が悪い」という点からも、もっと問題視すべきでしょう。

 最近、世界のあちこちでは言いたいことを言えない国や地域が増加していますが、幸い私たちの国では、言論の自由が保障されています。(行政のトップが「言論の自由」の意味を分かっていないような発言もありましたが…)

 イギリスやアメリカなどの高等教育現場では、質問や意見しないことは授業を受ける気がないのに等しいとして叱られる、と聞いたことがあります。そういう私も、なかなか自分で手をあげて発言することができませんが、逆に自分が何かを発表したり説明したりした後で何も質問や意見が出されないと、「聞いてもらえてないのかな」とか「理解してもらえていないのかな」と不安になるものです。これは筆者の気の小ささに由来するのかもしれませんが…

 政治家は言ってみれば「人気商売」。本来であれば大衆の意見をもっと聞きたい、取材したいと思ってもよいはずですが、街頭演説や演説会の場において、質問や意見を集るシーンはあまり目にしません。収拾がつかなくなる心配があるのかもしれませんが、皆の話を聞こうとする態度こそが、「国民の意見に耳を傾ける」というものではないでしょうか。特に住宅街などを走り抜けながら公約などを流し続けるなどは、在宅で聴く方には長広舌の一部しか聞き取れず、何を言っているのかわからない内に走り去る、馬鹿にされている気になるのは私だけでしょうか。

 そうした街宣スタイルの候補者が多いのも、選挙民は自分の意見を持っていないだろうと、タカをくくられている証左だと思います。私たち一人ひとりがしっかりと自分の意見を持ち、政治や社会に対して発言や投票行動を起こすことが、国や社会の成熟を促す一歩になるのではないかと思います。