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下町経済指標はインフレ只中です

音無祐作

 日銀黒田総裁が、任期中の物価上昇2%達成を断念、6度目の延期-というニュースが入ってきましたが、私にはそんなデフレムードを全く感じられない、むしろインフレまっただなかではないかと思ってしまう商品があります。自動車です。
 先日、ある車雑誌に「今、300万円未満でどんな車が買えるか」といったような特集がありました。ここ15年以上車を買い替えていなかった私にそれは、驚きの内容でした。300万円といえば、高級車だと思っていたのですが、現代では一概にそうとは言えないようなのです。
 私の今の車は当時、新車価格で250万円程度の価格をさらに大幅値引きして購入しました。お買い得レベルの大衆車というわけではなく、高級車とまでは呼べなくても十分贅沢な車だと自負しています。その価格と現代の同じ銘柄を較べてみると、装備や安全運転支援装置の充実があるとはいえ、1.5倍程度になっている。かつて大衆車とされていたような車種でも300万から400万円、軽自動車も200万円近いモデルが多いのです。「若者に車が売れない」と嘆く声が産業界からよく聞こえますが、初任給がたいして上がっていないのにこれだけ値上がりしていれば、そうそう買えるものではないでしょう。
 この30数余年で価格が高騰したものがもう一つあります。大学の授業料です。
 1980年ころに60万円程度だった私立大学の授業料は、現代では110万円程度、30万円程度だった国公立大学の授業料は、国立80万円、公立90万円程度に跳ね上がった結果、最近では2人に1人が奨学金を利用しているそうです。かつて「日本育英会」があった時代に主流だった無利子奨学金は減り、小泉構造改革の一環で誕生した現在の独立行政法人日本学生支援機構のもとでは有利子奨学金が中心となり、条件によっては返済が免除になるという仕組みも現代ではないそうです。
 結果、この就職難の時代に返済に困る若者が増え、現在では年間500件の強制執行が執り行われているとのこと。ある記事の中では「奨学金制度は教育事業から金融事業に変わってしまった」という言葉もありました。返済不能に陥らないとしても、新卒で数百万円の有利子負債を抱えていては、贅沢どころか、結婚して家庭を持とうという気もなかなか起きないことでしょう。
 時代ごとに参考する品目を変える消費者物価指数では、見えるものと見えないものがあると思います。金融緩和や働き方改革の経済効果がどうなるかわかりませんが、若者が安心してお金を使える環境こそが、経済政策の礎のような気がします。