論 考

掻き回し屋の限界

 英国ジョンソン首相は、目下、EUとの合意が大勝利だったと宣伝に勤めている。たしかに、やや破天荒なまでの外交的揺さぶりをかけて交渉したのは事実である。しかし、EUは揺さぶりには動じなかった。むしろ、それによって危惧されたEU内部の結束をもたらしたからだ。

 ジョンソン氏は、これから国内ブレグジット強硬派のリフォームUK(前のブレグジット党)から、揚げ足取りをやられるかもしれない。しかし、すでに国内は2016年のブレグジット投票のナンセンスさに気づいた人が増えているし、リフォームUKが極端に過激な主張をすれば、むしろ自分の党勢を弱めるだけだろう。

 ジョンソン氏は、リーダーシップ確保のために強硬派に乗ったが、今度は、国内のリベラル派が頼みの綱になる。

 問題は、北アイルランドがアイルランドとの結束を高めようとしているし、スコットランドが再び独立住民運動への動きを進めている。この問題に対しては、ジョンソン的愛国主義が効果的かどうかは極めて疑問である。

 EUと合意はしたが、イギリスは従来のようにEU市場に気軽にアクセスできない。自分が扉を狭めたからだ。これから貿易の具体的な各項目が明確になるが、新たに多くの手間がかかることも想像される。

 貿易にせよ、国際関係にせよ、自然の流れは、カント(1724~1804)が指摘したように、世界は1つになるように歩むということを頭に入れておくべきだ。掻き回せば停滞はするが、それが新たな秩序を構築するわけではない。