論 考

火つけが火消しをする愚

 ロイターの9月3日~8日の意識調査によると、バイデン氏52%、トランプ氏40%という結果が出ている。

 コロナや経済などの政策別の支持をみても、バイデン氏がリードしている。目を引いたのは、社会不安に対する取り締まりについては、トランプ氏が支持45%、バイデン氏40%である。

 ここから、米国市民が社会秩序の安定を求めていることがわかる。おそらく、トランプ氏は劣勢逆転のために、秩序維持のために断固戦うスタイルを押し出すであろう。

 トランプ氏が白人至上主義を煽り、「Black Lives Matter」の運動が盛り上がったのであるが、社会的不安定が市民の不安をかき立てている。傍目には、社会不安という結果を作ったのはトランプ氏自身に原因があるが、原因と結果の関係よりも、不都合な結果に対して強いリーダーシップを期待するのが市民の意識らしい。

 いわばトランプ氏が放火して、油を注いだ。ところが一転、消火作業をするという典型的なマッチポンプ作戦である。

 T・ホッブス(1588~1679)の「自然状態では人間は万人の万人に対する闘いの状態にあるから、お互いの契約によって主権者たる国家を作り、万人がこれに従うことによって平和=安穏が確立される」という説は、単純に理解すれば、「混乱か秩序か」の対比である。

 だれでも混乱より秩序を求める気風が強い。しかし、なにゆえ混乱が生じたのかという核心を把握していないと、混乱を起こした当の本人が秩序維持のリーダーとして君臨するわけで、下手な、というより悪質なデマゴーグによる芝居である。

 このように極端に事例でなくても、マッチポンプ政治家の言動・動向は枚挙にいとまがない。デマゴーグ、マッチポンプの害を被らないようにするためには、なんといっても、市民1人ひとりが、事態を見抜く冷徹な眼をもたねばならない。それがデモクラシーの質(民度)を意味する。