論 考

労使共闘? 地に足が着いていない

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 春闘集中回答が出て、新聞は、満額回答、高水準賃上げの文字が浮かれている。今回は、朝日新聞の報道を見ながら一言記す。

 全体のトーンが「労使共闘」春闘論である。もともと春闘は労使間交渉であって労使それぞれが春闘に臨む。わざわざ労使共闘と書くのは、組合要求に反論せず、満額回答、さらにはそれ以上回答した企業があったからだろう。

 それにしても、朝日新聞にもまともな労働記事が書ける記者がいなくなったものだ。労働組合運動、労使関係、賃金論を勉強している記者であれば、こんな軽薄な見出しや記事は書かない。

 第一に、交渉の成果は本来、労働組合の要求の強さに比例する。今春闘で、強いベア要求を構えて組合があったか。それはレアケースだろう。であれば、労使共闘という表現は、一種の皮肉か、あるいは警鐘であるはずだが、単純に結果オーライ、よかった論に集約しているから、とても感心できない。

 賃上げ交渉はもちろん、賃金引上げが目的だから、しょぼい回答よりもバンとした回答がいいのは当然である。ただし、昔、くそのついた千円札でも千円だと語った組合大幹部がいたが、これでは、貧しい拝金主義である。

 当時は現在とは異なってつねに大幅賃上げ時代であったが、少しでも多ければいいのだという締まりのない性根だから、飢餓賃金といわれた時代の賃上げモデルから脱皮できず、結果、今日のような体たらくにつながった。

 経営側もデフレ脱却のためというが、デフレは経済停滞の原因ではない。経済停滞が原因で不況なのである。

 日本はGDPがドイツに追い越されて4位になった。順番はどうでもいいが、ドイツの人口は日本の2/3で、しかも、労働時間は圧倒的に短い。つまり、日本はドイツに対して、労働生産性がまったく劣っている。

 周知のように相変わらず円安である。それは輸出競争力にとって好都合であるが、冷静に考えれば、円安のおかげで、なんとか外貨を稼いでいる。ただし、円安だから、日本が輸入するために大枚はたく。国民生活はどんどん貧しくなった。株が上がったと喜んでいるが、日本経済の実力が上がったわけではない。

 そんな中で、国民の消費が盛り上がらないから、賃上げで盛り上げるというのであるが、5%そこいらでは盛り上がらない。単純にいえば物価上昇分の補填に消える。

 賃上げで消費支出を上げるためには、働く人の70%を占める中小零細企業の賃上げが勝負だが、はっきりいって期待できない。

 今回、要求以上に回答を弾んだ! 企業があった。多けりゃいいのよ論なら、それで終わりだが、その組合はなにを要求したのか? 経営側が出せる数字を甘く見ていたのは否定できない。

 昔は、要求を全面的に蹴とばして、執行部が詰め腹切った事例が多いが、一方、要求以上に回答するのは、執行部が無能だということを知らしめるのであるから、これもまた詰め腹であった。

 とにかく、もらうものは多ければよいという性根では、組合運動は持続しない。たまたま、今年はもらえた! もらえなくなったらどうするのか? 昨年までのように、儲からないから仕方がない論でがまんするだけか。

 春闘最高水準というような浮かれ切った見方をするかぎり、組合運動だけではない。わが国経済の再建はとてもじゃないが無理だろう。

 朝日新聞の未熟記者の話や、前述のような理屈については、ベテラン活動家のみなさんはすでに承知だと思う。くれぐれも浮かれることのないように、しっかりした要求によって活動する組合つくりに活躍していただきたい。