論 考

毅然とした態度

筆者 渡邊隆之(わたなべ・たかゆき)

 2024年3月11日、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)の新所長に赤根智子判事が選出された。任期は3年、日本人としては初めてである。

 赤根氏といえば2023年3月にウクライナ侵攻をめぐりICCの判事としてプーチンに逮捕状を出した人である。

 ロシアは赤根氏含むICCの3人の判事に対して指名手配する報復措置に出ていた。「身の危険を感じないのか」との記者の質問に対し赤根判事は「仮に1人の裁判官が死んでもいくらでも替えが利く。だから狙う価値がない」と毅然とした態度をとった。証拠と事実に基づいて、かつ、実際に処罰できると判断しての決断だ、と語った。法職者としての威厳を感じる。

 3月17日にはいよいよロシア大統領選挙が実施される。選挙と言っても名ばかりで、いままでも不正が横行し、公正さのかけらもない。独裁政治をごまかす見かけ上の儀式である。正々堂々と選挙に打って出るのであれば、政権批判のある対立候補に難癖をつけて立候補させないことはないであろう。

 2月16日には反プーチン勢力の筆頭ナワリヌイ氏が亡くなった。親ロ派の鈴木宗男氏はナワリヌイ氏死去でプーチンの関与を否定したが、そもそも対立候補を帰国時点で逮捕し、極寒の地の刑務所に長期間留め置くこと自体が責められるべきであり、少なくとも監督責任を問われる立場にある。これを肯定するならば「人間の尊厳」自体を否定することになる。

 鈴木氏にはロシアによるウクライナ戦争でロシアが勝利した場合、地元北海道との関係で有利な条件を引き出したいとの思惑があったのかもしれない。ウクライナ戦争での早期停戦を呼び掛けていた点は一面では評価できるが、侵略者に対して安易に領土を差し出すような発言はいただけない。武器がなく勝ち目がなければ早く降参すべきだと主張していたが、それなら故郷北海道がロシアに侵略されたら同じ発言ができるのか。先の大戦で多くの日本人がシベリア抑留でどのような仕打ちをうけてきたのか知らないわけではあるまい。

 今回のロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルによるガザ侵攻では、多くの無辜の民の命が失われたこと、街が荒廃しこれからの生活が成り立ちがたくなったこと、武器商人が金を手にする一方で、各国で物資の調達が困難になり不必要なインフレが起きていること、武器の爆発で大気汚染が進み地球環境破壊が加速していること等である。しかもこれらの事象が、一部の愚かな指導者によって進められている。

 国際犯罪についてはその制裁について強制力を見出すことが難しいが、国際機関、各国の協力によって少しでも具現化できるように期待をしたい。