論 考

元気の1視点

 地球人口が80億人になった。科学技術、医療衛生の進歩が基本的な理由だろう。筆者が社会人になった1963年ごろは30億人を超えたところだったから、60年間にざっと3倍近くになった。

 1960年代後半には、米国によるベトナム戦争がピークだった。開高健(1930~1989)『ベトナム戦記』によると、南ベトナムの兵士の後には家族がくっついて戦場を移動しているが、エスプリの効いた表現で、おなかの大きい細君をしばしば目にしたと記述している。

 命の危険にさらされるなかで家族が増える。生存欲求は危険にさらされるほど強くなるというマズローなどの説を極限的に証明しているのかと考えたものだが、環境がいかに危険であろうと、力いっぱい生きてやるという生物としての活力が発現したのは間違いないだろう。

 自分の体験からしてわが社会も、時代をさかのぼるほど活気があった。筆者は戦後の現実しか知らないが、敗戦で落ちるところまで落ちて、口には出さずともなにくそという気迫があったと思われる。

 マズローの理論によれば、最高度の欲求は成長欲求(自我・自己実現)である。社会が進歩すれば生存欲求は相対的に弱くなる。昔より相対的に生存が容易になったなかで、いかに1人ひとりが成長欲求を育てるか。

 いまの不元気な社会を乗り越えていくのは、その辺りに1つの鍵が荒れそうだ。もちろん、ただ人口が増加すればよろしいのではない。元気に生きる意味を自分自身のものにすることが大事であろう。