論 考

中国の反戦詩

 白居易(772~846)に、「新豊折臂翁」(新豊の臂を折りし翁)という詩がある。807年の作とされる。

 いまの陝西省にある新豊鎮の88歳になる老人は、髪も鬢も真っ白である。玄孫(やしゃご)に支えられて歩いている。右腕がない。

 問えば、平穏に弓矢のことなど無関係に暮らしていたが、唐玄宗皇帝の末期になって、大規模な徴兵が始まった。徴兵されると万里の彼方の雲南へ飛ばされる。村の人々は誰もが血涙を流して出征するが帰ってきたものは1人もいない。

 老人が24歳であった。彼は夜更けに大きな石で腕を叩き折った。おかげで雲南行きを免れた。

 それから60年余、腕は1本ダメになり、寒い夜は夜通し痛んで眠られない。しかし、自分は生き残った。そうでなければ雲南の地で幽鬼となったにちがいない。だから決して後悔しない。

 詩は、みなさん老人の声を聞きなさい。忘れてはいけないと締めくくる。

 プーチンの徴兵は評判がわるい。やらなくてもいい戦争を始めたツケがじわじわ戻ってきた。

 紀元前、周穆王が、西方の民族を征伐しようとしたとき、大臣の蔡公謀父は、「王者と徳を耀かして兵を示さず」、いにしえの聖王は、徳を耀かしたことはあっても兵を誇示しなかったとして穆王に諫言した。

 プーチンは歴史を勉強したらしいが、王者たる哲学がない。王者の風格がない権力者に対しては、換言する君子がいない。