論 考

科学技術立国の断面

 半世紀前、わたしのいた電機会社でも半導体製造が開始した。

 作業者が拡大鏡を覗きながらハンダ付けをする。のどかなもので、当然ながら作業に十分熟練していないから、製品の歩留まりが20%前後で、歩留まりをいかに向上させるかに躍起であった。

 工場を機密性が高く、恒温室にするので、まだほとんどの工場の空調が行き届かない時期に、半導体工場は空調も完備されて、作業者は白衣着用して、病院みたいな雰囲気もあった。

 戦略事業というわけで、経営者が破格の予算を投入した。なにかと予算でぶうぶう言っていたから、儲からない半導体への巨額投資は、他事業部からは怨みの発言も出ていた。しかも、せっかくの予算を使いこなせなかった。

 幼稚な話であるが、予算を出せば目的を達成できるわけではないことを、わたしは、そのときはじめて知った。

 悪戦苦闘、善戦健闘が実って、1990年代初めには、世界半導体売上上位10社のうち6社が日本企業だった。今は、昔である。

 台湾積体電路製造TSMCが九州に進出する8千億円の半導体工場に、政府は4千億円の補助をする。技術移転を期待するにしても、そこでの製品は最先端ではないので、進出歓迎、巨額補助の意義がよくわからない。

 なんだか、過疎地への工場誘致みたいである。