月刊ライフビジョン | 社労士の目から

健保組合は医療従事者等の救済を

石山浩一

 コロナ感染の拡大が止まらないなか、経済活性化を目的としたGoToキャンペーンが実施されている。総額1兆5300億円の税金を使ってのキャンペーンだが、東京都は感染者増加によってスルーされている。全国的にも感染者が増加していることや東京が除外されたことから、その効果が疑問視されている。貴重な税金の使い道は他にもあるはずだが検討された気配がない。

“医療・介護関係者の救済を”

 東京女子大学の看護師400人が退職を申し出たと報じられた。コロナにより外来患者が激減し病院の経営が悪化して、給与の減額と今冬のボーナス支給はゼロとするとの申し入れを受けてのものだった。病院の説明では令和元年度の実力ベースで約12億円の赤字となり、その他の収支を考慮してもボーナスに充てる資金はないという。

 赤字になった最大の要因は全国の病院に共通するが、新型コロナによって来院患者数が大幅に減っているためである。伝統ある東京女子医大病院だが経営は厳しく、コロナ患者の受け入れはしていなかったが、東京都の再三の要請によって受け入れることになった。受け入れにあたり、態勢強化のため担当看護師の募集を行ったが応募者は少なく、個人面接によって決められたという。コロナ受け入れによって経営が圧迫されているのである。

 コロナ患者の医療を担当する医師や看護師がいなかったら、医療崩壊は簡単に現実のものとなってしまう。こうした現実を突きつけられているにも関わらず、医療崩壊は起こらないと胸を張るトップの言葉を、現場の看護師たちはどう受け止めているのだろうか。連日の業務でコロナ患者の治療や看護にあたる医療関係者に、官僚が書いた文章を読むのではなく自らの言葉で感謝の気持ちを伝えてほしいものである。同時にコロナの治療に当たる病院や看護師や接触が避けられない介護関係者に、特別な給付等を考えるべきである。

“救済資金は健康保険積立金で”

 ところで筆者は定期健診の結果、4週間ごとに血圧等の診察を受けているが、診察時間は1分なのに待ち時間は1時間程度が普通だった。ところが最近は待っている患者が数名で、10分も待たないで名前を呼ばれるようになっている。コロナの影響で医院や病院の患者が激減していることを実感したのである。日本医師会が今年の3月から5月までの診療所の報酬が2割減と公表している。

        —–3月—————4月————–5月—–

    病 院   +5.7%     - 6.3%   -11.6%

    診療所  -10.7%     -18.6%   -20.2%

 3月~5月の耳鼻咽喉科は33.5%、小児科も35.8%減少しているという。

 同じ日の新聞に国民健康保険(国保)の2018年度の収支が215億円の黒字だったと報じている。加入者数も119万人減少しているという。

 今回のコロナで病院へ行く人が大幅に減少していることから、医療費の2/3を負担している国保の2019年度はさらに黒字が増加することが考えられる。けんぽ協会の30年度の支出見込額は6000億円となっている。この金額を参考に、けんぽ協会の組合員の2割が病院等へ行くのを控えたら1200億円程度の支出減となり、大幅な黒字が推定される。黒字になれば当然保険料を引き下げることになるが、国保も含めてその一部をコロナの治療にあたっている医療関係者や、業務上コロナ患者に接する機会の多い介護関係者に特別給付を考えてほしいと考えるものである。


石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/