月刊ライフビジョン | 地域を生きる

コロナ禍の家族たち――今こそ地域再生を

薗田碩哉

 3月はじめから学校はお休み、4月になると緊急事態でお父さんも在宅勤務・・・という状況で、地域は今や充実の度を増している。朝から晩まで家族そろって一緒に過ごし、テレビを見たり本を読んだり、ときどき近くの公園に行って散歩をしたりボールを蹴っ飛ばしたりして運動不足を補う。日頃は多忙を極めて家にいることが滅多にないお父さんが四六時中家に居座り、子どもたちの勉強を見てやったり、お母さんの家事を手伝ったりしているのだ。コロナ感染の不安があるにせよ、家族が家族らしく結束して難関に対処するという点ではまことに麗しい「家族の時間」が流れている(はずだ)。

 とは言ってもそれは家族生活が安定していて仲がよければという条件付きのお話である。夫婦仲がうまく行っていなかったり、子どもが親を信頼できなかったり、あるいは日常的にDVに見舞われているような家族にとってはコトは深刻、ほとんど地獄である。父親がまともな職に就けず、母親もパートに追われカツカツに生きている家庭では「コロナの休職」は命とりだ。働き場所があったとしても保育園はお断り、学童クラブもとうとう閉鎖というところが増えてきた。生活不安とストレスに押しつぶされた夫婦は顔を合わせればケンカをはじめ、昼間、家に一人閉じ込められた子どもたちは、ゲームに飽きて壁を蹴飛ばしたりしている。

 家族がないものはどうするのか。近年、増え続けている独居老人たちにとって大きな救いの場だった公共施設は軒並み閉鎖である。朝一番に地域の図書館を訪れて新聞各紙に目を通すのが日課だった爺さんは、いち早く戸を閉めてしまった図書館に困惑している。始めは本の借り出しと返却だけは受け付けていたのに、それさえアウトになったところが多い。歩いて行ける地区センターの趣味の集まりに出るのが楽しみだった高年夫人は、どのお教室も当分休みというので、友達と公園のベンチでマスク会議をしている。喫茶店もだいたいお休みだし居酒屋はやっているところもあるが何となく入りにくい。パチンコ屋はねばって営業しているところもあるが自粛要請が厳しくなった。

 地域活動家をもって任ずる小生はと言えば、すべてのイベントが中止か延期に追い込まれ、会議もままならず、里山の山荘で晴耕雨読を強いられている。町田市が打ち出した図書館削減計画への反対運動は、見直しの請願を集めて議会へ持ち込んだのはいいが、委員会の傍聴がコロナを理由に禁止された。2人の代表が説明の時間をもらえたものの、傍聴席は空っぽ。これに先立つ教育委員会への請願の折には、50人もの傍聴者が文字通り詰めかけて圧力をかけたのに(もっとも教育委員はカエルの顔に何とかで平然と請願を不採択にしたが)、今回はまことに平和な会議になってしまった(市のホームページで中継はされるのだが隔靴掻痒の感)。市当局の面々にはコロナ禍は反対運動の勢いを削ぐ好機と見えているだろう、何しろ堂々と集会禁止要請を出せるのだから。安倍の何某の政府もコロナを利用して強権支配の前進を目論んでいるようだが、それにしては彼の政策のお粗末、演出の不様、演説のへたくそさ加減は呆れるのを通り越してほとんど悲惨であった。

 職場が閉鎖されて地域と家庭に人々が帰ってきている今を、地域再生のチャンスとして捉え返す発想が必要だと思う。誰もが否応なく地域のありようを考えさせられる。緑一杯で広々とした公園があるのは、なるほどこんな時のためだったかとか、公共施設はやっぱりなくてはならないが、その割には肝心な時に役に立たないとか、安くない市民税を召し上げられているのだから、非常時には市民を安心させてくれるサービスをもっと迅速に繰り出すべきだとか、みんな言いたいことがたくさんあるはずだ。コロナ明けには、地域人たちが思いの丈をぶちまけることのできる場を用意して、まちづくり運動に弾みをつけなければいけない。

 それまで待っているわけにはいかないとばかり、見よう見まねの電子会議なるものを取り入れることになった。パソコンにカメラとマイクをくっつければ、お互いが顔を見ながらおしゃべりができるという有難いシステムである。テレワークが日常化している若い人たちに言わせると、そんなのは現代人の常識で、会議や交渉はもちろん、「オンライン飲み会」なんかも盛りあがるのだそうだ。これもぜひ試してみたい。とは言え、仲間の高齢者の話では、画面の顔を見合いながら酒を喰らったのはいいが、興奮のあまり手もとが狂ってパソコンに酒をぶちまけて機械を台無しにしてしまったというからご用心。


【地域のスナップ】(地域に生きる 62) キンラン

 里山の雑木林に自生する野生のラン。

 一昔前はどこでも見られたが、1990年代ころから急激に数を減らし、1997年に絶滅危惧II類に登録されている。私たちの田んぼの後ろの斜面に今年もしっかり咲いてくれた。(2020/4/27 町田市小野路町で撮影)


薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。