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田舎暮らしにあこがれる背景には…

音無裕作

 年末恒例の流行語大賞や漢字、近年は「それって流行語なの?」という言葉が続いた気がしますが、今年は「そだね~」。久しぶりに「流行語」と呼べる大賞だった感じで、活用したた方も多かったのではないでしょうか。

 これらとは別にリクルートも、来年のトレンドを予想する8つの領域のキーワードを発表しています。その中の「住環境」のキーワードは、「デュアラー」でした。これは都市部と田舎の二つの生活をデュアルに楽しむ人のことだそうで、今までの都市部に住みながら別荘を持つ暮らし、とは少しニュアンスが違うとのこと。別荘ともなると、定年を過ぎて時間的も経済的にも余裕のある人たちの贅沢な楽しみと思われますが、「デュアラー」は田舎の空き家やシェアハウスを利用した、20~30代のビジネスパーソンのライフスタイルとして人気が上昇しているとのことです。

 認定NPO法人ふるさと回帰支援センターによると若者の田舎暮らしへの憧れは増加しており、センターが主催する相談会やセミナーには年々、若い参加者が増えてきているそうです。近頃は都市部の高層分譲住宅、いわゆるタワーマンションが人気ではありますが、その一方で「盛年は荒野を目指す」のでしょうか。自然豊かな土地や広い住宅、のびのびとした環境での子育ては憧れですし、アットホームなご近所づきあいや、その地方ごとの豊かな食材なども魅力です。

 「カバチ!!!」という連載漫画のこのところのテーマが、ある若いファミリーの田舎への移住です。漫画でテーマになるくらい、若者の移住人気が盛んになってきていると感じますが、そのファミリーに待っていたのは素敵な暮らし、というわけではありませんでした。都市部とは勝手の違う地域の慣習やしきたりになじめず悩み、その地域の家庭は皆が納めている30万円という多額の寄付金を拒んだために村八分のようにされ、危機に陥ってしまいます。連載は進行中で、これから主人公の少し頼りない行政書士が活躍し、事態を収束していくことになる見込みです。

 漫画のストーリーは絵空事ばかりではなく、現実に頻繁に起きているようで、田舎暮らしの失敗談や対策を綴った書籍もいくつか出版されているようです。先日、そんな本の一冊、「誰も教えてくれない田舎暮らしの教科書」(清泉 亮 著)の紹介を目にしました。「現住所から150km圏内で移住先を探せ」とか「いきづまったら即転居」だとかの鉄則、なかでも「現地の実態については地元の住職や駐在の話を聞け」というのなどは、なるほどと納得。私の知人が工場に転勤した際に、「自分はこちらにあらかじめ友人がいたので、最初の町民集会で誰のところに手土産の酒を持参しろ、誘われても上座には座るな、などと教えてもらっていたが、それで助かった」などと言っていました。何事にも入念な下調べと準備は大切ですが、大きなお金のかかる住環境となればなおさらのことでしょう。

 いろいろと苦労はありそうな田舎暮らしではありますが、やはり自然と近い、おおらかな生活環境には憧れます。都市と田舎の二元生活を楽しみたいものですが、そもそも国民の貧困な住宅政策を放置したまま、都市部での巨大運動会や大博覧会、大博打場に国費を注ぐ真意はなんでしょう。いつまでも目くらましのイベントで政権の延命が図れると思われているなら、国民もずいぶんなめられたものです。