月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

大国の大罪と私たちのなすべきこと

渡邊隆之

 昨年2月24日に勃発したウクライナ危機もとうとう年をまたぐことになった。多くのウクライナ人がプーチン率いるロシア軍に虐殺され、日常の生活インフラを壊され、国外への避難や国内での過酷な生活を強いられている。いかなる理由があるにせよ国連憲章に反し人命を軽視するロシアの蛮行は許されない。しかし、責められるのはロシアだけなのであろうか。

 1994年12月のブダペスト覚書では、英米露の共同署名のもと「ウクライナが核を放棄し核をロシアに移転する代わりに、ロシアはウクライナに手を出さない」とされた。NPT(核拡散防止条約)に加盟し核兵器を放棄したため結果としてウクライナは甚大な被害を受けることになった。ウクライナの核兵器放棄と国の安全保障に共同署名した英米の今回のウクライナ危機での初期対応ははたして適切だったのだろうか。

 アメリカ曰く、ブダペスト合意は安全“保障”ではなく“保証”だとして、直接の軍事介入はしない旨明言し、ウクライナの自国防衛のための武器支援という形をとった。一見アメリカは平和的かつ正義の味方のように見えるが、見方を変えれば、自分は直接手を下さず、ウクライナが人の盾となってロシアを疲弊させ、自国の軍需産業も儲かる、こんなふうにも見える。

 アメリカが世界の警察の立場を降りる旨宣言するのは構わない。しかし、今まで覇権を拡大するにあたり各国に手を突っ込み、その都度自らの都合で手を引いてきた。それにより関係諸国で混乱を招いてきた。その反感・恨みの一つとして噴出したのが、あの2001年9月11日のアメリカ同時多発テロではなかったか。

 わが国も北方領土問題を解決できずにいる。1956年の日ソ共同宣言直前に「歯舞・色丹2島の返還で(ソ連と)講和するなら沖縄は返還しない」といういわゆるアメリカ国務長官ダレスからの横やりが入り(いわゆる「ダレスの恫喝」)、日ソ共同宣言に書かれた平和条約の締結も、歯舞群島・色丹島の返還もないまま、今日に至っている。また、1972年5月に沖縄がアメリカから返還されたが、名目上日本に復帰はしたものの米軍基地は残り、日本にとって不利な日米地位協定はそのままである。アメリカにとって都合はいいが、わが国での問題は一向に解決されていない。

 また、中国の脅威に備えるためアメリカはアフガニスタンから撤退したが、その後のアフガニスタンは無法地帯となった。女性の教育を認めない。街の破壊により、通常の仕事で生計を立てるのが困難になり、麻薬やその器具の取引が横行している。中毒患者も増え、まさに地獄絵図となっている。

 イギリスも同様、過去の三枚舌外交でパレスチナ問題は継続している。香港デモを武力で制圧したことで中国政府は各国から多大な批判を浴びたが、歴史的経緯を見ればそもそも香港がイギリスの植民地になったのは、アヘン戦争に遡る。その時代その時代で大国は正義のためでなく、専ら自国の利益のために動いているのである。

 これと対比して思い出されるのは、アフガニスタンで銃弾に倒れた中村哲医師である。あくまで現場の人々の意思を尊重し、対話型で物事を解決し、伴走型支援をした。だから、彼の言葉は心に響くのである。

 そう考えると、今回のウクライナ危機について、英米はロシアに戦争を好き勝手に始めさせてはいけなかった。ウクライナ・ロシアの多くの尊い人命が失われ、アフリカでは食糧危機、欧州ではエネルギー危機とインフレ、地球規模での気候変動が生じてしまった。

 よく中国の憲法の上には中国共産党があると批判される。しかし日本も日本国憲法の上にアメリカの存在があり、そのことで国益が損なわれ、憲法・法律の解釈が捻じ曲げられているものもある。尖閣列島や台湾有事の際、今回の自国第一主義のアメリカの振舞いを見るならば、日本も第二のウクライナのようになる可能性もある。

 そのことを踏まえ戦争をどうしたら未然に防げるか、カルト教団と組んで議席にしがみつく議員や政党でなく、真摯にこの国の将来について深く考え分析する議員を選びたいし、声や思いを伝えたい。巷ではコロナ感染者もじわじわと増えているが、そうであれば、家の中でじっくりと世界の歴史に目をやり、国際社会が少しでも明るくなる方法についてあれこれ思いをめぐらす正月とし、新しい一年を駆け抜けたいものである。


◆ 渡辺隆之 ライフビジョン学会会員