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今年の冬のことだけでなく

音無祐作

 子供の頃、夏と冬のどちらが嫌いかという問いかけに対し「冬」と答えたひとりがいました。理由は、「寒いと死んじゃうけど、夏の暑さで死ぬなんてあまり考えられないから」。

 しかし近年は、人間の活動による温室効果ガスの影響により、猛暑日が当たり前となり、「今日は30度しかないから涼しい」なんてセリフまで出てくる有様。猛暑で亡くなる方のニュースもたびたび報じられるようになっています。

 とはいえ冬の寒さも侮れず、平均気温は年々上昇傾向にあるからかもしれませんが、空調設備が無ければ命にかかわるような厳しい環境下にあることに変わりはありません。加えて温暖化による負の影響なのか、突然の大寒波や大雪に見舞われることもあり、少しも安心できません。

 昨年の冬は何気なく過ごせた気がしますが、実は電力需給がひっ迫し、危険な状態もあったとを後になって知りました。今年はさらに危機的な状況が予想されるそうです。「電力需給のひっ迫報道は、原発の必要性をアピールするためだ」という意見を聞くことがありますが、はたしてどうなのでしょう。

 市民にとってガソリンや軽油、そして灯油の価格は直接的に気になりますし、ニュース番組では原油価格の動向が日常的に報じられるので、燃料というと石油関連ばかりに注目が集まりがちです。

 しかし、現在の日本の発電は石炭やLNG液化天然ガスが主流です。これらは、世界的にも需給バランスが逼迫していて、2020年の一時期に比べると、価格は3倍以上になっているそうです。高騰する要因は、需給バランスによるところが大きく、これらの燃料の確保自体がこの冬の大きな政治課題となることでしょう。

 最近では、多くの家庭の暖房が電気頼みになっています。灯油を使うとしても、ファンヒーターや多機能ストーブは、電気が無ければ使えません。地域や住宅環境によっては、冬季の長時間停電が、生命の危機になりうることは疑いありません。

 危機は、今年の冬で終わるとも限りません。家庭や企業の電力消費、電気自動車・プラグインハイブリッドによる充電の増加などで、需給バランスの改善はなかなか厳しそうです。

 供給サイドでも、掛け声の割に再生エネルギー発電も急激な拡充は難しそうで、岸田総理肝いりの核燃料サイクルも技術的、コスト的にすでに破たんしていると言われ始めています。

 素人目線ですが、日本の再生エネルギー政策が欧州などに比べると格段に遅れており、まわりが実施した後にようやくそれを追いかけ、といった動きのように見えてしまいます。数十年か前の子ども時代に読んだ書籍で紹介されていた、日本に適しているとされる波力・潮汐発電や地熱発電はその後も研究・開発は進んでいるのでしょうか。

 地球温暖化対策は、地球上の生命持続にとって避けて通れない課題です。文明的に生きようとして地球上の生命体が脅かされるのでは、本末転倒です。

 まだ間に合います。政治は意にそぐわない学者を排除し、忖度してくれる人間の意見を聞くばかりではなく、多くの科学者の多様な意見に耳を傾け、科学的知見に根差した対策を考え、新たな技術の実用化を積極的に推進していただきたいと思います。