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新型コロナウイルス禍をどう生き切るか

日本薬学会会員 堀江 透

正しく知って正しく警戒

 新型コロナウイルスは私達に、社会活動上のとてつもなく大きな問題(労働環境・生活環境)を提起しました。「密閉した空間にしない」「人と人が密集しない」「密接した会話や会食を避ける」の「三密」を避ける日常生活・労働環境を強いられ、多くの人が自宅自粛(スティホーム)を余儀なくされております。さらに、マスクを着用する、手指の消毒などの生活様式が求められ窮屈な日常生活を送っております。人と人との距離(ソーシアル・ディスタンス)を保つよう心掛ける必要があり、コミュニケーションなどに齟齬をきたしています。

 新型コロナウイルスの特徴の第1は、「潜伏期間がほどよく長い」ので、知らず知らずに他人に感染させる機会が多いことです。発症する3~7日前には すでにウイルスの侵入が完成していることになって、感染した人は元気に市中を動き回って、他人に感染させてしまっているのです。

 一方、通常のインフルエンザでは感染するとすぐに高熱を発症して、外出も働くこともできず、寝ているしかないので、他人に移す機会は少なくなります。即日・翌日とかに感染してすぐ発症するような感染症であれば気をつけるのですが、新型コロナウイルスは狡猾なウイルスと言えます。

 第2はまさしく「ただの風邪」にしかみえない症状です。初期はただの風邪にしか見えないから油断して、病院に行かず、そのうち治るだろうとタカをくくっていると突然、重症化して死に至る人もいます。感染している若者の80%は無症状ですから、市中に出回り、他人に移しまくってしまいます。感染は人の流れに依存して拡大していくのです。居酒屋での飲みながらの楽しい会話が最も感染リスクが高いのです。

  第3は全員が重症化するわけではありません。多くの人を安心させておいて、ロシアンルーレット的に重症化させ、彼らを確実に集中治療室に追いやり、結果として医療機関を重く圧迫してくる、極めて厄介なウイルスなのです。

  第4は高齢者の死亡率が高いと言われていますが、健康で持病のない高齢者はほとんど死んでおりません。多くは糖尿病、高血圧、腎臓病など基礎疾患のある高齢者です。生活習慣病の患者が新型コロナウイルスの標的になっているのです。子供や若い人を運び屋に仕立て上げ、同居する高齢者を家庭内で感染させているのです。高齢の親と同居していれば確実に、高齢者を死に追いやる手助けをしていることになるのです。

 第5は多くの人の命ではなく「距離や会話を奪う」ウイルスであることで、日常生活が破綻します。人と人との出会いも無くなり、関係欲求が満たされず、人間らしい生き方が出来なくなるのです。仙人みたいに世俗から離れて一人で生きていたい人は別ですが、多くの人は人と人との繋がりの中で生きているのです。

 老いが怖いのは出会いが無くなり、過去にお付き合いした方がどんどん亡くなっていく中で、自分を見つめ直したときです。寂しさに苛まれます。人間にとって生きるとはただ単に生きながらえることではなく、人と出会い、面と向かって会話して、関係を築いていくのが人生なのです。

 第6は、2週間で1回の割合で変異する新型コロナウイルスの中には、感染力の強いウイルスに変異する株が出現してきていることです。現在(2021.4)はイギリス型、南アフリカ型、ブラジル型が欧州で猛威をふるっており、さらに医療を圧迫しております。日本でもおそらく、これらの変異ウイルスにとって代わるでしょう。最近ではフランスで見出されたブルターニュ株といわれる、PCR検査をすり抜ける変異株も出現しており、市中での感染リスクがますます高まってきています。

 国際的製薬会社からワクチンが届けられておりますが、変異ウイルスの出現により、ワクチンの効果がない変異ウイルス株が後続してくるでしょう。最近、アストラゼネカのワクチンは南アフリカ型の新型ウイルスには効果がないと報告されております。“スパイクタンパク質”を抗原とする抗体ですから、その部分に変異があるとワクチンが効かない可能性も出てきます。まさにイタチごっこになりかねないのです。

 国民の60%以上が感染している国でも集団免疫が獲得されていないようなので、変異ウイルスが猛威をふるって、再感染させているに違いありません。ワクチンを接種したからと言って、安心してはいられないのです。

人間の尊厳の視点から

 新型コロナウイルスの出現により、人間の尊厳が著しく脅かされています。志村けんさんが新型コロナウイルスに感染し死亡した時、ご遺体に実兄が立ち会えない事態が報道されて国民は唖然としました。関係者の感染リスクを避けるための措置として仕方がない雰囲気が漂っておりますが、最期の別れも交わすことができず、さよならも言えない事態です。マスコミはほとんど取り上げず、実際に現状を打開する措置が取られておりません。

 人間的尊厳が軽んじられていると言えるのかも知れません。厚生労働省からは「遺族が尊厳を持って、最期のお別れができるように事業者などにガイドラインを参考にしてもらいたい」と通達がだされているようですが、徹底されておらず、多くの葬儀社に人間的尊厳を尊重する葬送をお願いするのは無理なようです。しかし葬儀社の中には「お別れをしていただきたい」として、棺の死者へのお別れができる工夫をしている葬儀社も現れております。

 科学的には死体から飛沫が飛ぶわけではないので、接触感染さえ避けられれば感染など絶対に起こりえないのです。新型コロナウイルス感染に脅えている多くの国民がいるのも事実ですが、新型コロナウイルスの特徴を知れば、むやみに恐れることはないのです。

 人間は60兆個の細胞から成り立っており、細胞と細胞のコミュニケーションで機能を発揮しております。したがって細胞は集まることで、細胞と細胞が接触することで、新たな機能を発揮しているのです。また、細胞内ではミトコンドリア、小胞体、ゴルジなど「閉じた系」の中で独自の生理機能を創出していくのです。新型コロナウイルス感染リスクを避けるための「3密回避」は、生物が生きる方向と逆のベクトル求められていることになり、元気とはほど遠い日常生活を強いられることになります。

 もともと人類は、ウイルスとの戦いを経て生き延びて来ており、ウイルスも変異を繰り返しながら、人類との戦いに勝利したウイルスのみが現存するわけです。天然痘ウイルスのように人類の戦いに敗れたウイルスは地球上には存在し得ないのです。

 おそらく、新型コロナウイルスは今までのウイルスとは根本的に異なり、「種の保存」の原理から変異を繰りかえしながら、しばらく人間社会を脅かす存在でい続けるものと思われます。人間には新たに、新型コロナウイルスと共生していく生活環境が求められるのかも知れません。

 これからもステイホームして、人と人との接触する機会をできるだけ少なくする生活が余儀なくされます。面と向かって、口角泡を飛ばして人生を語ることもできなくなり、人間関係は大きく変貌することでしょう。

 孤独と退屈は高齢者の敵ですが、そのような日常生活を余儀なくされては楽しい人生など送れるわけはありません。新型ウイルス禍の中、高齢者はステイホームを余儀なくされ、引きこもり、巣籠状態では老人性うつ病が増加して、自殺者も増加するでしょう。

労組の重点は賃上げを離れて

 リモート会議が増えて、労働環境も様変わりしております。もともとテレビ会議は存在していましたが、やはりFace to Faceの面談方式が会議の基本ですから、テレビ会議もほとんど外国とのやり取りに使われていたに過ぎません。

 新型コロナウイルス禍では、社内会議もほとんどがリモート会議に置き換わっております。家庭内で仕事をすることが多くなり、公私の区別が難しく、労務管理も新たな仕組みが必要となります。確かに、長時間の通勤による疲れがなくなりますが、その分運動量が減って肥満傾向になっております。家庭での夫婦の時間、こどもと過ごす時間が増えて、良くも悪くも関係がぎくしゃくすることも出てきます。「亭主元気で留守がいい」志向の奥様方には相当なストレスが生じているでしょう。パートや臨時雇用、非正規労働者と正規労働者の間で格差が拡大することになり、労働組合も賃上げのみに重点を置く労働条件改善闘争には向かわないでしょう。

 「カドメイアの勝利」ということわざがギリシャ神話に出てくるようです。勝つには勝ったけど、負けに等しいほどの打撃をこうむることを言うそうです。新型コロナウイルス感染による経済へ痛手も同じような気がします。リーマンショックどころか、1929年に始まった世界恐慌に匹敵するほどダメージを受けているという経済学者もいます。ウイルスの感染は封じても、刺し違えるように多くの人が倒産や失業、困窮に喘いでいます。「カドメイアの勝利」に脅えているのは立場の弱い人たちです。

攻めの手を欠く政府の対応

 政府は「守り」の対策ばかりで「攻め」の対策はほとんど取られておりません。新型ウイルスの感染源は飛沫感染、エアゾル感染がほとんどです。接触感染は健康人であるならウイルスが侵入したとき、ほとんどは血中で死滅させる防御機構が働いています。飛沫感染、エアゾル感染は鼻腔から口腔内に侵入したウイルスが気管を通り、直接肺胞に到達して感染するので、防ぎようがないのです。

 しかし口腔粘膜、舌下から侵入したウイルスは、血中の白血球の中の好中球がウイルスを取り込み死滅させます。好中球中にはミエロペロオキシダーゼ(MPO)というヘムタンパク酵素が存在して、過酸化水素、塩素イオン、水素イオンを材料にして、次亜塩素酸を産生しております。

 この次亜塩素酸は強力な抗菌作用、抗ウイルス作用を発揮します。MPOは好中球、単球だけにしか存在しません。また適応に有利な遺伝多型があり、アメリカ人、イタリア人には3000~5000人に一人の割合で欠損者がおりますが、日本人は5万人に一人の欠損者です。欧米と比べて日本人の1日の最大感染者が10分の1以下で、極端に低い死亡率の要因の一つではないかと思っております。

 この次亜塩素酸水((株)フリーキラ製薬製造・販売)を新型ウイルス発生源に使用されれば、感染のリスクは低くなると思います。例えば、居酒屋での対面者の間に次亜塩素酸水を噴霧すれば会話を通して、口から吐き出されたウイルスを即座に消滅させることができるのではないかと思います。また、カラオケのマイクから次亜塩素酸水を噴き出せれば、歌っている人息の中の新型ウイルスを死滅させることができるものと期待しております。

この命をどう生かすのか

 私は昨年、後期高齢者の仲間入りをしました。しかし。私の「後期」は「好機」を意味するものであり、高齢者は「好齢者」であります。憲政の神様と称される尾崎行雄は74歳にして、「人生の本舞台は常に将来にあり」との名言を残しています。75歳を過ぎても、これからもチャンスを掴む年代であり、齢を重ねても人生を謳歌する夢とロマンを求めて行動する年代だと思っております。

 幾つになっても「挑戦意欲」「学ぶ心」「体を動かす」ことは重要です。「生涯現役」とは何も稼ぐということだけでなく、幾つになっても、ワクワク、ドキドキするときめきの感動を味わい、社会との関係を保ち、高い志を掲げ、世のため、人にために働くことであり、そのことから生きがいが生まれるのだと思います。

 生き切るとは「何のためにこの命を使うのか」「この命をどう生かすのか」ということです。命の最高の喜びとは命を懸けても惜しくないほどの対象と出会うことです。その時こそ、命は最も充実した生の喜びを味わい、激しくも美しく、燃え上がるのです。

 「君は何に命を懸けるのか」「君は何のためになら、死ぬことができるのか」この問いに答えることこそが、人生を生き切るということであります。出会いの秘訣は感性を磨くことで、その感性は、感受性ではなく、求感性であります。求感性とは、自分が生きていくために必要な情報を自ら求め、感じ取ろうとする働きであります。人生の達人になりたければ、求感性の働きとして、命から湧いてくる興味、関心、好奇心、欲求、欲望、ときめきに従うことであります。幸せだと感じた日には自分を創った人と自分を今日まで生かして下さった人にまず感謝したいです。いつ何が起こるかわからないのが人生であります。

 現状肯定型の人生設計では元気は出て来ません。「今より良くしよう」「よくなろう」いう意識が大切であります。自分の「かくありたい姿」を模索して、「現状の姿」と比べながら、「かくあるべき姿」を差し引いたものが、自分の当面の課題です。それに向かって挑戦するところに元気が生まれるのです。人生、幾つになっても「恋」「愛」が大切です。若く、元気に生きたいなら、恋をして、ワクワクドキドキするときめきの機会を多く持つことが大事だと思います。

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 私は生きがいの無い職場で働くほど空しい人生はないと考え、大きなリスクを抱えて、定年までの5年半を待たずに、会社を飛び出しました。たくさんの方々と出会い「我この道より生かすべき道なし、高い志をもってこの道を行く」をモットーとして、「自らの人生は自ら切り開く」生き方を多くの方々に支えられ、今日まで無事過ごせていることに感謝しております。

 「我この道より、行くべき道無し、行く道にて精進し(70代)、忍びて(80代)、悔いなし」の心境でこの世を去りたいと思っております。       2021年3月


堀江透 ライフビジョン学会会員/ディ・スリー研究所代表取締役所長/元製薬会社勤務/日本薬学会会員/httphttp://www.d3researchlabo.com/