月刊ライフビジョン | 社労士の目から

コロナ禍で細る雇用保険積立金額

石山浩一

 大阪既製服健康保険組合の倒産が報じられている。コロナ禍で加盟会社の業績の悪化によるとされている。大阪既製服健康保険組合は既製服の製造販売会社など約50社の約2400人が加盟しているが、解散により組合員は主に中小企業が加盟している協会けんぽに移行する。コロナ禍による財政悪化は健康保険だけでなく、雇用調整助成金(雇調金)の支給増加によって、雇用保険積立金も大幅に減少している。

“激減する雇用保険積立金”

 コロナ禍による休業者への雇調金が昨年4月1日から支給開始された。当初は9月30日までを緊急対応期間と位置づけ、感染拡大防止のため特例措置を実施したが、感染者数は減少せず増加傾向にある。さらに緊急事態宣言等もあって特例措置期間が延長され、雇調金の支払いが増加している。こうした状況によって雇用保険積立金は下記の通り大幅に減少している。

収支表/年度  2015    2016    2017    2018    2019    2020 

保険料収入   18,197   15,117   10,881   11,242   11,467   12,223

失業等給付   16,523   16,311   16,402   17,155   20,649   20,741

積立金残高   64,260   63,066   57,545   51,632   44,450   27,932

保険料率     13.5      3.5      13.5    11.0       9.0      9.0

 ――――――――――――――――――――――――億円/単位――保険料率は(1/1000)

 雇用保険積立金の過去最高は2015年の64,260億円で、最低は2002年の4,064億円だった。景気の好不調を考慮した長いスパンでみれば、40,000億円前後の積立金が安定的な残高となっている。なお、雇用保険料は労使折半分と使用者負担分があり、現在の9/1000の料率のうち求職者手当(旧失業手当)分は6/1000が折半となっている。残りの3/1000が使用者用の積立となる。今回のコロナ禍による休業は使用者責任となるため、雇調金は使用者の積立金から支払われている。しかし、雇調金が急増しているため企業の保険料による積立金が枯渇し、1兆7千億円の財源不足が予想されている。当面は労使折半の雇用保険積立金からの借り入れでしのぐことになるが、この積立金も21年度に底をつく見通しで限界が近い。こうした状況から雇用保険の料率アップが喫緊の課題となる。

 コロナに感染すれば家族を含めて通常の日常生活ができず、周囲に与える影響も大きい。同時に上記の雇用保険や健康保険への負担も避けることができない。コロナに感染しない努力は本人のためだけでなく、家族や周囲の人や社会保険の財政維持に貢献するということも意識した防止対策が望まれる。


石山浩一 特定社会保険労務士。ライフビジョン学会顧問。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/